海外資産の相続はどのように行う? 手続きの流れと注意すべき点とは

2023年01月17日
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海外資産の相続はどのように行う? 手続きの流れと注意すべき点とは

福岡国税局が公表している「令和元年分相続税の申告事績の概要」によると、令和元年度における福岡県内の被相続人数(死亡者数)は5万4099人でした。同年度の課税価格の総額が4136億300万円、申告税額の総額が474億8800万円であったことからすると、被相続人1人当たりの課税価格は1億2998万円、税額は1492万円にもなります。

高額な資産を有している方が亡くなったときには、相続税の申告が必要になることがあります。そのなかには、日本国内だけでなく海外にも資産を有している方が被相続人となられる場合もあるでしょう。そのような方が亡くなったときには、通常の相続手続きとは異なる対応が必要になることがあります。そして、適切な手続きをとらなければ、海外資産の相続ができないだけでなく、税金の課税においても不利益を受ける可能性があるのです。

本コラムでは、海外資産の相続手続きの流れと注意点について、ベリーベスト法律事務所 久留米オフィスの弁護士が解説いたします。


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1、海外資産を相続するときの流れ

海外に資産がある場合の相続手続きは一般的に「国際相続」と呼ばれており、通常の相続とは異なる手続きがとられることがあります。まず、国際相続において海外資産を相続するときの流れについて、解説いたします。

  1. (1)どの国の法律が適用されるかの確認

    国際相続においてはまず確認するべきことは、「どの国の法律が適用されるか(準拠法となるか)」です。

    通常の相続の場合には、被相続人や相続人も日本国籍であり、相続財産も日本国内になることから、当然、日本の法律によって処理されることになります。
    しかし、国際相続においては、適用される法律が日本の法律なのか、海外の法律なのかによって行うべき手続きが変わってきます。そのため、まずは準拠法を確定する必要があるのです。

  2. (2)準拠法の考え方

    国際相続においてどの国の法律を適用するかについては、「法の適用に関する通則法」(通則法)に規定があります。通則法36条では「相続は、被相続人の本国法による」とされていますので、原則として、被相続人の国籍のある国の法律が適用されることになります。
    したがって、被相続人が日本国籍の場合には日本の法律が適用されて、外国籍のときには外国の法律が適用されることになるのです。

    ただし、相続財産が海外にある場合には、準拠法が日本法であったとしても、その外国において手続きをとらなければならないことがあります
    たとえば、アメリカ、イギリス、中国、フランス、ベルギーなどでは、「相続分割主義」といって相続財産の種類およびその所在地によって別個の準拠法の規律に委ねる立場がとられています。そのため、被相続人が日本国籍を有していたとしても、被相続人の相続財産のうち不動産が相続分割主義を採用する外国にあるときには、不動産の相続に関しては不動産がある外国の法律にしたがって手続きをしなければならないのです。

  3. (3)検認裁判の有無

    アメリカなどに海外資産(不動産)があるときには、当該海外資産を相続するにあたっては、「検認裁判」という手続きをしなければなりません。検認裁判とは、裁判上の手続きによって遺産分割手続きをすすめることをいいます。

    相続人全員による遺産分割協議だけでは、海外資産の相続をすることはできません
    裁判所が相続財産の分配についての許可を出した時点で、初めて海外資産を取得することができるのです。また、検認裁判を行うためには現地の弁護士の関与も必要になることから、費用が発生します。そして、検認裁判が終了するまでには数年ほどの時間を要するのです。
    一方で、検認裁判が不要な国であれば、当該国の法律にしたがって必要となる手続きをふむことによって、海外資産を取得することができます

2、税金の扱いはどうなる?

相続財産に海外資産が含まれる場合には、相続税の計算にあたって通常の相続とは異なる配慮が必要となります。
以下では、海外資産があるときの相続税の取り扱いについて解説いたします。

  1. (1)海外資産についても納税義務があるの?

    被相続人または相続人が、「居住無制限納税義務者」もしくは「非居住無制限納税義務者」に該当するときには、国内資産だけでなく海外資産も相続税の課税対象となります。

    ① 居住無制限納税義務者
    居住無制限納税義務者とは、相続または遺贈によって財産を取得した相続人で、相続発生時に、日本国内に住所を有している人のことをいいます。相続人が一時居住者であったとしても、被相続人が日本国内に住所を有しているか、相続開始前10年以内に日本国内に住所があったときには、当該相続人は居住無制限納税義務者にあたるのです。

    ② 非居住無制限納税義務者
    非居住無制限納税義務者とは、相続または遺贈により財産を取得した相続人であり、相続時に日本国内に住所がない人のうち、以下に該当する人のことをいいます。

    • 相続人が日本国籍を有し、相続開始前10年以内に日本国内に住所を有していたとき
    • 相続人が相続開始前10年以内に日本国内に住所がなかったとしても、被相続人が日本国内に住所を有しているか、相続開始前10年以内に日本国内に住所があったとき
  2. (2)「外国税額控除」とは何か?

    海外資産があるときには、その資産が存在する外国に対して、相続税に似た税金を納めなければならないことがあります。そのような場合には、同じ資産について、日本と外国の二カ所で二重に税金を払うことになってしまうでしょう。

    このような事態を回避するために、「外国税額控除」という制度がもうけられています
    外国税額控除とは、「相続税を外国で既に支払っているときには、日本で支払う相続税のうち外国の財産部分の割合を控除される」という特例的な控除となります。
    なお、相続税の外国税額控除では、以下の二つのうちいずれか少ないほうの金額が適用されます。

    • 外国で支払った相続税
    • 相続税額×(海外にある財産の額÷相続人の相続財産額)


    外国税額控除を利用することによって、二重課税の不利益を回避することができるのです。

3、トラブルになりがちなケース

上記のように、国際相続においては、複雑な法制度が絡んできてしまうことが多いものです。そのため、通常の相続と比べてトラブルになりやすい事案であるといえます。

特に、以下のようなケースではトラブルが発生しやすいため、相続をする際には国際相続に詳しい弁護士に相談を行うことをおすすめします

  1. (1)被相続人が外国籍であるケース

    被相続人が外国籍であるケースでは、通則法36条により、被相続人が国籍を有する外国の法律が適用されることになります。
    そのような場合には、被相続人の国籍のある国の相続法についての理解がなければ、被相続人の遺産を相続することはできないのです

    場合によっては、「反致」という手続きが行われる可能性もあります。
    反致とは、いったんは外国法が適用されるものの、外国法において「準拠法を被相続人の住所地」とされているときには、被相続人の住所地のある日本の法律が適用されるという手続きのことになります。
    しかし、反致が行われるかどうかは、関係する外国の法制度を知らなければ、判断することが困難です
    このように、国際相続においては、相続の前段階から手続きが発生することが多々あります。そのため、特に海外資産が関わる場合には、実際に相続が発生する前から弁護士に相談することをおすすめいたします。

  2. (2)相続人に外国籍の方がいるケース

    被相続人が日本国籍を有している場合には、日本の法律が適用されるため、通常の相続手続きと同様に遺産を分割することができます。
    しかし、相続人に外国籍を有する方がいる場合には、通常の相続に比べて複雑な手続きが必要になるものです。

    まず、「外国籍を有する相続人との連絡がとりづらい」という問題があります
    言語が違うことによりコミュニケーションが困難になるという事情のほか、相続人が海外に住んでいる場合には、「住所や連絡先が分からない」という理由から、そもそも遺産分割協議を開始することもできないというおそれがあるのです。
    また、外国籍の相続人と連絡がついたとしても、相続人が在住する国によっては、戸籍謄本、住民票、印鑑証明書など、日本における相続手続きで通常必要となる書類が存在していない可能性もあります。
    そのような場合にも、手続きは通常よりも煩雑なものとなってしまうのです。

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4、弁護士に依頼すべきケース

通常の相続の手続きでは、遺産をめぐって相続人同士で争いが起こっていない場合には、弁護士のサポートなくすすめることもできるでしょう。
しかし、国際相続の事案については、争いがない場合であっても弁護士の関与なく相続手続きをすすめるということが非常に困難になります。
被相続人や相続人に外国籍の方が含まれている場合や、相続財産が海外にも存在するといった場合においては、弁護士による関与は必要不可欠となるのです

国際相続には、準拠法の確定、相続人の調査、相続財産の調査など、日本国内の法制度だけでは処理することができない問題が多々あります。
そのために海外の法制度に関する正確な理解が不可欠となるのです。また、海外資産の相続にあたっては、その資産の評価や課税の問題など、外国の税制に関する理解も必要となります。
したがって、国際相続が発生したという場合には、早い段階から弁護士に相談をするようにしましょう

5、まとめ

海外に資産があるなどの国際相続の事案で、通常の相続手続きに比べて複雑なものとなります。専門家の力を借りずに、相続人の方々がすべて自分たちで手続きをすすめようとすると、かなり困難な作業となるでしょう。
ベリーベスト法律事務所グループには、外国の法律や相続税制度に詳しい弁護士や税理士が所属していますので、相続に関する法律問題から相続税申告や相続対策の問題まで、ワンストップサービスを提供することができます。
福岡県久留米市や近隣市町村で国際相続の問題にお悩みの際には、ベリーベスト法律事務所 久留米オフィスまでご相談ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています