相続争いが辛いから家族と絶縁したい|絶縁は相続権に影響ある?
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2022年の司法統計によると、福岡県の相続放棄の受理件数は、1万217件でした。
相続放棄の目的は親族・家族間のトラブルに巻き込まれたくない、という意図があることが少なくありません。また、親族で相続トラブルになった場合には、相手と絶縁したいと考える方もいらっしゃるでしょう。
そこで、この記事では、親族の縁を切ることができるのか、特定の相続人に相続させないためにはどうすべきか、相続人同士の仲が悪い場合の対処法などについて、ベリーベスト法律事務所 久留米オフィスの弁護士が解説します。
1、相続争いで絶縁することはできない
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(1)絶縁する「法律上の手続き」はない
結論からいうと、不仲を原因として、親子・兄弟姉妹などの親族を法的に絶縁する手続きはありません。
親族関係の縁を切ることを、一般的に“絶縁”や“勘当”などという言葉で表現しますが、いずれも法的な制度や手続きではありません。そのため、「何年も音信不通で連絡を取っていない」「絶縁状を送り付けて絶縁関係である」としても、法律上の親族関係が消滅するわけではないのです。
ただし例外として、婚姻前に出産し父親が定かでなかった場合など、法律上の親子関係を否定する「親子関係不存在確認の訴え」や、実親との親子関係が終了する「特別養子縁組」などの手続きが存在します。 -
(2)事実上の絶縁をしても相続権は消えない│相続順位とは
事実上、絶縁関係にあるとしても、法律上は親族であることに変わりはありません。そのため、絶縁しても相続権は消滅しません。
ただし、相続人には民法で定められた優先順位があります。親族であっても、必ず財産を相続するわけではありません。
常に優先して相続人となるのが、亡くなった方(被相続人)と婚姻関係にあった配偶者です。加えて、配偶者と同順位となる第1順位が子ども、第2順位が直系尊属(被相続人の父母・祖父母)、第3順位が兄弟姉妹となります。
たとえば、父親が死亡した場合、母親と子どもが同順位の相続人となります。このとき、第2順位と第3順位の相続人に、相続権はありません。第1順位の相続人が不在の場合に、次の順位の相続人が相続権を得ることになります。 -
(3)遺産分割協議をしなければ相続手続きは進められない
同順位の相続人が複数いるときには、相続財産はその相続人と共有関係になります。たとえば、第1順位の子どもが複数人いるような状況です。
このような状態を遺産共有・相続共有などといい、共同して相続人となる者を共同相続人といいます。
もし実家を子どもたちで遺産共有した場合、その家を売却するためには遺産分割を行う必要があります。遺産分割手続きをするためには、共同相続人全員で話し合い、遺産分割協議を行うことが原則です。
したがって、絶縁状態や仲の悪い兄弟姉妹であっても、共同相続人である限り、話し合って遺産分割協議を進める必要があるのです。ただし、遺産分割協議は必ずしも対面で行う必要はなく、手紙・メール・LINE、電話などで行っても問題はありません。
お互い顔を合わせたくない場合には、弁護士を介して協議を進める方法も有効です。まずは、相続トラブルの実績がある弁護士に相談してみることをおすすめします。
2、悪質な行為をする相続人に相続させたくないときの手続き
一部の相続人を「絶縁」によって排斥することはできません。
しかし、一定の悪質な行為をする相続人については、以下のような手続きによってその相続権をはく奪することができます。
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(1)相続人廃除
一定の相続人から相続権をはく奪する制度として「相続人の廃除」があります。
一定の廃除原因として、以下のような事情が定められています。- 被相続人に対して虐待をした
- 被相続人に対して重大な侮辱を加えた
- 推定相続人にその他著しい非行があった
相続人の廃除は、生前に家庭裁判所に申し立てるか、遺言で行うことができます。遺言で相続人廃除が定められていた場合、遺言執行者や他の相続人が、家庭裁判所に相続人廃除の申立てを行わなければなりません。
なお、被相続人はいつでも推定相続人の廃除の取り消しを家庭裁判所に請求することができます。したがって、一度廃除となっても、被相続人が生前に取り消しを請求すれば、再び相続権を取り戻すことができます。 -
(2)相続欠格
相続欠格事由があれば、ただちに相続権を失います。何らかの手続は必要とされていません。
そして、相続欠格事由として定められているのは、以下のような者です。- 故意に被相続人または相続について優先順位・同順位にある者を死亡するに至らせ、または至らせようとしたために刑に処せられた者
- 被相続人が殺害されたことを知って、これを告発せず、または告訴しなかった者(是非の弁別がないとき、殺害者が自己の配偶者または直系血族であったときは除く)
- 詐欺または強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消させ、または変更させた者
- 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破壊し、または隠匿した者
以上のような者は、ただちに相続権を失います。
3、家族間の仲が悪いときに起こり得る相続問題と対処法
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(1)家族と連絡が取れない
その家族と不仲である場合は、その家族の連絡先が不明であることも少なくありません。この場合、その家族の本籍地がある市区町村役場で戸籍の附票を取り寄せてみてください。その家族の戸籍附票を確認することでその家族の現在の住民票がある住所地を確認することができます。ただし、その家族本人以外で戸籍附票を取得できる人は、その家族と同一戸籍の者、その家族の直系尊属、その家族の直系卑属、弁護士などの専門家に限られています。
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(2)遺産分割協議に応じてもらえない
親族・家族が遺産分割協議に応じてくれないという場合には、遺産分割調停・審判を申し立てる必要があります。遺産分割調停を行う場合には、管轄の家庭裁判所に、相続人のうち1人または数名が他の相続人全員を相手として申し立てることになります。
調停を申し立てる場合には、弁護士に依頼するのがおすすめです。弁護士に事件を依頼しておけば、調停手続きの対応や事前準備などについても一任することができます。 -
(3)遺産分割協議で争いに発展してしまう
遺産分割協議で争いやもめ事に発展してしまうおそれがある場合には、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
とりわけ、これまで仲の良くなかった親族で財産の分け方について話し合うと、「誰がどの財産をどれだけ取得するのか」「相手には一銭も財産を渡したくない」として紛争に発展する可能性が高くなります。
早期に弁護士を入れて協議・交渉をすることで、スムーズに話し合いを進められる可能性が高まります。 -
(4)争いが長引き精神的に疲弊してしまう
遺産分割の協議が難航し、調停・審判手続きをへても、いつまでたっても解決しないという事案もあります。
そのようなケースでは、長期間の紛争状態に精神的に疲弊してしまうという可能性があります。相続財産が決して多くはない場合や、すぐに親族との関わり合いを断ちたいという場合には、「相続放棄(次章で後述)」をするのもひとつの選択です。
4、優先して行うべき相続手続き
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(1)相続放棄
相続人同士の仲が悪く、手続きの長期化が予見される場合には、相続放棄も検討しましょう。
相続放棄とは、相続するすべての財産を放棄するための法的な手続きです。相続放棄を行うと、はじめから相続人でなかったことになるため、遺産分割について他の相続人と関わり合いを持つ必要はなくなります。
なお、手続きには期限があり、相続開始を知った日から3か月以内となります。 -
(2)相続税の申告
相続税の申告と納税は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に、被相続人の住所を管轄する税務署に対して行う必要があります。
注意点として、相続税の申告については、遺産分割されていない場合であっても期限内に行う必要があります。また、遺産分割協議が成立していない場合には、適用できない控除や特例が存在しているため確認が必要です。詳細は、税の専門家である税理士にご相談下さい。 -
(3)相続登記
相続人は、不動産(土地・建物)を相続で取得したことを知った日から3年以内に、相続登記をすることが法律上の義務になります。
遺産分割(相続人間の話合い)で不動産を取得した場合も、別途、遺産分割から3年以内に、遺産分割の内容に応じた登記をする必要があります。
正当な理由がないのに相続登記をしない場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。
したがって、不動産を相続で取得したり、不動産を遺産分割によって取得した場合は、できるだけ速やかに、法務局で、不動産の名義変更を行いましょう。
5、まとめ
以上この記事では、相続間の争いや不仲によって絶縁できるのか、絶縁状態にある親族がいる場合の遺産分割の進め方などについて、解説してきました。
相続をめぐってトラブルに発展する可能性がある場合には、早めに弁護士に相談することが重要です。ベリーベスト法律事務所 久留米オフィスには、相続トラブルに対応できる弁護士が在籍しております。相続でお悩みの際は、まずは一度ご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています