農地法に違反したらどのような罪に問われるのか?

2020年06月05日
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農地法に違反したらどのような罪に問われるのか?

農地の権利者に対しては売買の際や他の土地活用に転用する際には、農業委員会や都道府県知事等からの許可取得や届出などが義務付けられています。これを怠ったり虚偽の許可申請や届出を行ったりすると、農地法違反に問われる可能性があることをご存じでしょうか。

平成30年2月1日に発行された「久留米市農業委員会だより」によりますと、平成30年の久留米市農業委員会管内では約8762ヘクタールもの農地が存在しています。農地の所有者がその土地の有効活用について考えることはさまざまです。当該農地で農業を営みたいと考える人もいれば、農業以外の収益性の高い事業に有効活用したいと考える人もいるでしょう。しかし、後者の場合は特に注意が必要です。

そこで本コラムでは、農地法の概要と農地法違反で問われる可能性がある罰則、そしてもし農地法違反に問われたときにとるべき対応について、ベリーベスト法律事務所 久留米オフィスの弁護士が解説します。

1、農地法とは

農地法とは、農地や採草放牧地について規定した法律です。
ここでいう農地とは田や畑など耕作の目的に供される土地のことであり、採草放牧地とは農地以外の土地で主に家畜の放牧や家畜用の飼料等にするための採草をとるための土地のことをいいます。
日本の農地は、国民に食料を供給するための大切な資源です。そこで、むやみに農地を宅地などへ転用することで農地が減少することを防ぎ、かつ耕作者の地位の安定と国内の農業生産の増大を図り、国民に安定的な食料の供給を図ることを目的に農地法が制定されているのです。
なお、土地が農地であるか否かは登記簿謄本上の地目とは関係なく、現況で判断されます。たとえば地目が「原野」だったとしても現況が畑だった場合は、農地として扱われるのです。

2、許可や届出の必要な農地の取引

農地法では、農地の「権利移動」・「転用」・「転用目的の権利移動」の取引について、あらかじめ農業委員会や都道府県知事等の許可を取得することや届出をするよう規定しています。以下で許可や届出の必要な農地の取引について、ご説明します。

  1. (1)権利移動(農地法第3条)

    農地または採草放牧地について、売買など所有権の移転・地上権や賃借権等を設定するときは、あらかじめ農地または採草放牧地が所在する市町村の農業委員会に許可申請し、許可を得ることが権利者に義務付けられています。具体的には、農地または採草放牧地の売買契約を締結したときは、所有権移転登記のときまでに農地法第3条の許可を農業委員会から取得しておかなくてはならないのです。
    ただし、以下のような場合は原則として農地法第3条の許可を得る必要はありません。

    • 国による農地利用集積円滑化団体や農地中管理機構等への権利移動
    • 農地中管理権が設定される場合
    • 土地改良法、集落地域整備法等による交換分合が行われる場合
    • 農業経営基盤強化促進法に基づく農用地利用集積計画によりこれらの権利を取得する場合
    • 特定の農山村地域における農林業等の活性化のための基盤整備の促進に関する法律に基づく所有権移転等促進計画によりこれらの権利を取得する場合
    • 民事調停法の農事調停によりこれらの権利を取得する場合
    • 土地収用法その他の法律によってこれらの権利が収容され、または使用される場合
    • 遺産の分割、離婚による財産分与、包括遺贈などによりこれらの権利を取得する場合
    • 農地法の規定によってこれらの権利や利用権が設定されたり、移転されたりする場合
  2. (2)転用(農地法第4条)

    農地または採草放牧地を宅地や工業用地など農地以外のものに転用する場合は、あらかじめ都道府県知事または農林水産大臣が指定する市町村の長に許可申請し、許可を得ることが義務付けられています。
    また、市街化区域内の農地を農地以外のものに転用するときは、あらかじめ農地が所在する市町村の農業委員会にその旨を届け出ることが義務付けられています。

    具体的な流れは、以下のとおりです。

    1. ①農地または採草放牧地の所有者は農地法第4条の届出書に記名・押印のうえ、都道府県知事等または農業委員会に提出する。
    2. ②農業委員会などの行政で審査のうえ、届出を受理することとした場合には、受理通知書が交付される。
    3. ③受理通知書を添付のうえ、法務局あてに地目登記変更申請を行う。

    なお、地目が農地または採草放牧地であっても現況が宅地であれば、法務局によっては受理通知書がなくても地目変更登記を受け付ける場合があります。この場合、地目変更登記について農地法第4条の届出を行う必要はありませんが、その要否について事前にしっかりと法務局に確認する必要があります。

    また、以下のような場合は原則として農地法第4条の許可を得る必要はありません。

    • 国または都道府県が省令で定める一定の施設に転用する場合
    • 農業経営基盤強化促進法に基づいて転用する場合
    • 特定の農山村地域における農林業等の活性化のための基盤整備の促進に関する法律に基づいて転用する場合
    • 土地収用法等によって収容した農地を収容目的に転用する場合
    • 市街化区域内の農地をあらかじめ農業委員会に届け出て農地以外のものに転用する場合
    • 地方公共団体が土地収用法第3条に掲げる施設の建設のためその区域内の農地を転用する場合
    • 市町村等が市街化区域内の農地を農地以外のものに転用する場合
    • 自己所有の農地を2アール(a)未満の農業用施設に供する場合
  3. (3)転用目的の権利移動(農地法第5条)

    農地を農地以外のものに、採草放牧地を採草放牧地以外のもの(農地を除く)に転用するために売買など所有権の移転・地上権や賃借権等を設定するときは、あらかじめ都道府県知事または農林水産大臣が指定する市町村の長に許可申請し、許可を得ることが義務付けられています。

    また、市街化区域内の農地または採草放牧地を農地および採草放牧地以外のものに転用するために売買など所有権の移転・地上権や賃借権等を設定するときは、あらかじめ農地が所在する市町村の農業委員会にその旨を届け出ることが義務付けられています。

    具体的な流れは、以下のとおりです。

    1. ①農地または採草放牧地の売主および買主は、売買契約締結前または締結後速やかに農地法第5条の届出書に双方が記名・押印のうえ、都道府県知事等または農業委員会に提出する。
    2. ②農業委員会などの行政で審査のうえ、届出を受理することとした場合には、受理通知書が交付される。
    3. ③売買契約の決済時に受理通知書を添付のうえ、法務局あてに所有権移転登記申請を行う。


    ただし、以下のような場合は原則として農地法第5条の許可を得る必要はありません。

    • 国または都道府県が省令で定める施設の用に供するために権利を取得する場合
    • 農業経営基盤強化促進法に基づいてこれらの権利を取得する場合
    • 特定農山村地域における農林業等の活性化のための基盤整備の促進に関する法律に基づく所有権移転等促進計画によりこれらの権利を取得する場合
    • 土地収用法等によって収容した農地を収容目的に転用する場合
    • 市街化区域内の農地をあらかじめ農業委員会に届け出て農地を取得する場合
    • 地方公共団体が土地収用法第3条に掲げる施設を建設するためその区域内の農地等について権利を取得する場合
    • 市町村等が市街化区域内の農地等について権利を取得する場合

3、その他の農地法に関する規定について

農地法では、ここまで紹介したもののほかにも、面積や賃貸借についても規定しています。

  1. (1)所有できる面積には限りがある

    農地法では、国を除いて、その者の住所のある市町村の区域外の小作地を取得することを原則禁止しています。また、市町村内の小作地であってもその住所のある都道府県に応じて定められている面積(0.5ヘクタールから4ヘクタール)を超える面積の土地の所有を原則禁止しています。この規制は、戦後の占領下でGHQが実施した農地改革(農地解放)の名残ともいわれています。

  2. (2)賃貸借に関する規定について

    農地または採草放牧地の賃貸借について、農地法では規定しています。たとえば、農地または採草放牧地の引き渡しがあったときは、その登記がなくても引き渡しがあったとする事実をもって、その後当該農地または採草放牧地の所有権を取得した第三者に「私はこの農地(採草放牧地)の賃借人だ」と対抗することができます(農地法第16条)。

    また、賃貸借の当事者は、都道府県知事の許可を受けなければなりません。許可がなければ、賃貸借の解除・解約の申し入れ・合意による解約または賃貸借の更新をしない旨などの通知を原則禁止しています(農地法第18条)。

4、農地法違反で問われる罪や罰則

農地法第3条第1項、第4条第1項、第5条第1項または第18条第1項の規定に違反した者は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される可能性があります(同法第64条)。さらには、偽りその許可を得た者、第51条第1項の規定による都道府県知事などの命令に違反した者にも、同じ罰則が定められています。

そのうえで、取引の態様によって以下の措置がとられる可能性があるでしょう。

  • 権利移動……無効
  • 転用……原状回復および工事停止命令
  • 転用目的の権利移動……無効、原状回復および工事停止命令

5、農地法を違反した場合にとるべき対応

農業委員会など行政から農地法違反を指摘されたときは、まずは以下を行政にしっかりと確認したうえで対処してください。

  • どのような行為が農地法違反に該当しているのか。
  • 是正するためには何をすればよいのか。


不安があるときは、まず弁護士に依頼することをおすすめします。弁護士法第72条の規定により、農地法上のトラブルに対して農地法に基づく手続きを行うことは、弁護士しかできません。農地法に関連するトラブルの解決に実績と経験のある弁護士であれば、あなたの代理人としてトラブル解決に向けた依頼をすることができます。

6、まとめ

農地や採草放牧地の権利移動や地目変更は、農地法の関係から知らず知らずのうちに農地法違反をしてしまうことがあります。そのようなことがないように、農地や採草放牧地に権利移動や地目変更を行うときは、あらかじめ弁護士に相談しておくことをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所 久留米オフィスでは、農地法に関連するご相談を承っております。農地や採草放牧地の権利移動や地目変更をお考えの際は、ぜひお気軽にご相談ください。あなたのために、ベストを尽くします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています