コロナ対策のために社員の飲み会を禁止しても法律上OK?

2021年03月09日
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コロナ対策のために社員の飲み会を禁止しても法律上OK?

福岡県の調査によると、福岡県内における新型コロナウイルス感染症の陽性者数の累計は、令和2年10月17日時点で5139名となっています。
新型コロナウイルスの感染拡大は依然として続いており、いつ終息するかの見込みも立てられない状況になっております。

従業員がコロナウイルスに罹患してしまうと、会社の業務や風評に被害が生じるおそれがあります。また、会社が感染対策を怠っていた場合には、労働災害として損害賠償を請求されてしまうリスクもあるのです。
感染対策を徹底するため、「社員による不要不急の飲み会を禁止したい」と考える経営者も多いことでしょう。
しかし、コロナ対策という目的があっても、会社が社員に対して飲み会を禁止することは、法律的に容認されない可能性が高いのです。

本コラムでは、会社がコロナ対策のために社員の飲み会を禁止・制限することの法律的是非や、禁止できない場合に代替案となる対策について、ベリーベスト法律事務所 久留米オフィスの弁護士が解説します。

(出典:「福岡県内の新型コロナウイルス感染症の発生状況等」(福岡県HP))

1、会社が新型コロナウイルス対策を行うべき理由

新型コロナウイルスの感染拡大が終息しない限り、会社にとってコロナ対策を行うことは重要であり続けます。

会社が新型コロナウイルス対策を行うべき理由について、具体的に解説いたします。

  1. (1)クラスターが発生すると業務がストップしてしまう

    職場において社員が集団で新型コロナウイルスに感染した場合、会社は以下のような対応を取らなければいけません。

    • 感染した社員を数週間出勤停止にする
    • 濃厚接触者と思われる社員に対してPCR検査を行い、陽性の社員を自宅待機にする
    • 感染が発生したオフィスエリアを消毒のために閉鎖する


    さらに、全社的に大規模クラスターが発生してしまった場合には、オフィス全体を閉鎖しなければならない事態になる可能性もあるのです。

    このような事態に陥ってしまうと、会社の業務がストップして、経営に大きな打撃を受けることになってしまいます

  2. (2)社会からの批判を避けられる

    新型コロナウイルスが重大な社会問題となっている状況では、コロナ対策を行わない企業には、社会的非難が集まってしまう可能性があります。

    大企業や有名な企業であるほど、もし社員が外で飲み会などをしていたことが原因で新型コロナウイルスに感染し、メディアの報道などによってその事実が世間に広まった場合には、企業としての評判が落ちることは避けられません。

    企業がコロナ対策を行うことは、社会からの批判を避けるためのコンプライアンス活動の一環として、必須の取り組みになっているのです

  3. (3)労災リスクを減らせる

    従業員が新型コロナウイルスに感染したのが勤務時間中や通勤中であった場合には、労働災害が認定される可能性があります。
    この場合、労働者に生じた損害については、基本的には労災保険からの保険金により補填されます。

    しかし、会社がコロナ対策を怠ったことが原因で従業員感染した場合には、労働者に対する会社側の安全配慮義務違反が認められて、会社が損害賠償責任を負担することになってしまうおそれがあるのです。

    労災リスクを低減するという観点からも、コロナ対策を十分に行うことは必須といえるでしょう

2、社員の飲み会や外出を禁止することはできるか?

昨今の状況では、多数の経営者が、社員が新型コロナウイルスに感染しないように、飲み会や外出を自粛してもらいたいと思っていることでしょう。
特に、社員が節度を保たずに飲み会をして、それにより新型コロナウイルスに感染してしまった場合には、会社の社会的評判が落ちる可能性もあります。

しかし、会社が社員に対して飲み会や外出を禁止することには、様々な法律的問題が存在するのです。

  1. (1)勤務時間外の社員の行動を制限することは難しい

    会社と労働者の間に存在する雇用契約は、通常の場合は、「法律・契約などで認められた労働時間について、労働者が会社のために労働を提供する」ということを主な内容とします。

    逆に言えば、労働時間以外の時間については、会社が労働者を拘束することはできないのです

    それにもかかわらず、労働時間以外の時間における労働者の行動に対して会社が口出しをすれば、法的な根拠なく労働者の行動を制約していると見なされるおそれがあります。

    このような理由から、勤務時間外に社員が飲み会に行ったり外出をしたりすることを会社が禁止するのは、法律上は難しいといえるでしょう

  2. (2)飲み会・外出を理由とする懲戒処分は違法の可能性がある

    会社によっては、就業規則における懲戒事由として、以下のような要件を掲げている場合があります。

    • 会社に不利益を与える行為
    • 社員としての品位を欠く不適切な行為


    このような抽象的な要件を提示したうえで、「コロナ禍で飲み会や外出をすることは、懲戒事由に定められた要件に当てはまる」と解釈しようとする、という場合があるようです。

    しかし、コロナ禍といえども、飲み会や外出を「会社に不利益を与える行為」や「社員としての品位を欠く不適切な行為」などと強弁することは難しいでしょう。大半の社会人がプライベートの時間にはごく当たり前に行う、人間的な行為であるからです。
    また、仮に懲戒事由に該当するとしても、「悪質性の高い行為である」と見なすことは困難です。そのため、戒告などの軽微な懲戒処分しか認められない結果になるでしょう。

    つまり、飲み会に行ったり外出をしたりした際に新型コロナウイルスに感染した社員に対して、懲戒処分などのペナルティを課すことは違法となる可能性が高いといえるでしょう

3、会社が社員に不要不急の飲み会・外出をやめさせるには?

これまでに解説しましたとおり、会社が社員に対して勤務時間外の飲み会や外出を禁止することは、難しいといえます。
しかし、コロナ感染対策やコンプライアンスの観点からすれば、社員が不要不急の飲み会や外出は行うことは、やはり避けてもらいたいところです。

会社側から「禁止」することはできなくても、従業員の「自粛」を促進できる可能性はあります。その具体的な方法について、解説いたします。

  1. (1)「禁止」はだめでも「自粛要請」ならOK

    何らかのペナルティをもって飲み会や外出を「禁止する」ことが難しい場合であっても、飲み会や外出の自粛を「お願い」するという方法があります。

    あくまでも社員の自主性に委ねるということになりますが、「コロナ予防を徹底する」というメッセージを会社が打ち出すことによって、社員のなかにも「飲み会や外出は控えよう」という雰囲気や心構えが作られることが期待できるでしょう。

    また、それぞれの部署や支店にコロナ予防に関する委員を配置して、自粛の声掛けなどを行うことで、社員間での相互監視を機能させて自粛ムードを強化する、などの方法も検討できます。

  2. (2)リモート飲み会を提案・推進する

    いくら「コロナ予防」という名目があっても、社員を押さえつけたり社員の行動を間接的に制限したりするようなネガティブな方向の対策ばかりを行っていると、社員の不満が溜まり士気が下がる、という悪影響が生じるおそれがあります。

    また、飲み会を通じて社員同士がコミュニケーションを取ること自体は、会社の業務にとってもプラスな側面が多いものです。
    特に令和2年から入社した新入社員の場合は、これまでに他の社員と飲み会をした機会がなく、部署に馴染めていない可能性が高いと考えられます。
    そのため、会社の方から「リモート飲み会」の開催を社員に呼びかける、ということも有効な対策になり得るのです

    たとえば、忘年会などと同じように部署ごとに予算を組んで会社から一定金額を補助すれば、各部署で積極的にリモート飲み会が開催されるようになるでしょう。
    リモート飲み会がガス抜きの役割を果たして、社員同士が屋外で飲み会を開催することを予防する効果も期待できます。

4、コロナ対策は弁護士に相談を

令和2年以降、新型コロナウイルスをはじめとした感染症への対策を万全に行うことは、企業のコンプライアンスの一環としてきわめて重要になりました。

「従業員の行動をどの程度制約できるのか」、「どれだけの対策を打てば社会の批判に耐えられるのか」など、コロナ対策は多様な観点から検討する必要があります。また、これまでになかったような事態であるために、既存のノウハウが通用しないことも多いのです。
そのため、有効なコロナ対策を実践するうえでは、第三者の目線からのチェックが不可欠となります

さらに、もし従業員が実際に新型コロナウイルスに感染してしまった場合には、迅速かつ的確な危機管理対応が求められます。

ベリーベスト法律事務所 久留米オフィスの弁護士であれば、コンプライアンス・危機管理の両面から、法律を踏まえた適切なコロナ対応についてのアドバイスをご提供することが可能です
コロナ対策にお悩みの経営者の方は、ぜひ一度、ベリーベスト法律事務所にまでご相談ください。

5、まとめ

会社が社員による勤務時間外の飲み会や外出を禁止することには、法律的には容認することが難しいという実情があります。
そのため、社員による不要不急の飲み会や外出を控えてもらうには、「禁止」ではなく「自粛要請」を行ったり、「リモート飲み会」などの代替手段を提供したりすることが必要となるのです。

飲み会の自粛要請のほかにも、企業のコロナ対策は、法律を含めた多様な観点を踏まえて行う必要があります

ベリーベスト法律事務所の弁護士は、企業のコンプライアンスや危機管理対応に関する経験を豊富に有しています。
それぞれの企業の風土や内情に合わせながら、適切なコロナ対策を依頼者様とご一緒に検討するため、誠心誠意尽力いたします。
コロナ禍における企業法務にお悩みの経営者の方は、ベリーベスト法律事務所 久留米オフィスにまでご相談ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています