パブリシティ権とは? 肖像権・著作権との違いを久留米の弁護士が解説
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久留米市は、人気が高い音楽アーティストやスポーツ選手を数多く輩出しています。会社や自社の商品をPRするとき、資金力が豊富な大企業なら迷うことなく有名人を起用したいと考えるでしょう。しかし、予算に限りがある中小企業ではそうはいきません。
そこで注目してしまうのが、インターネット上などで公開されている有名人の画像や写真などです。公開しているものであれば、自由に使用しても良いのではないかとも思えるでしょう。しかし、特に権利関係に詳しくない方でも「肖像権」や「著作権」といった権利が存在していることを耳にしたことはあるはずです。
実は、有名人などのように知名度が高く、経済的に価値が高いと判断される人の氏名や肖像は「パブリシティ権」という権利によって保護されています。「久留米市が故郷だから」「地元だから」といって、勝手に氏名や肖像を使用すると権利侵害を訴えられるおそれがあります。
本コラムでは「パブリシティ権」について、久留米オフィスの弁護士が詳しく解説します。
1、パブリシティ権とはどのような権利なのか?
「パブリシティ権」という用語について、初めて耳にしたという方は少なくないでしょう。あるいは、聞いたことはあっても意味は知らないといった方もいるはずです。
まずは、パブリシティ権とはどのような権利なのかについて解説しましょう。
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(1)パブリシティ権の定義
日本におけるパブリシティ権とは、判例を読み解くと「有名人や著名人が、自己の氏名や肖像などについて、対価を得て第三者に専属的に使用させ得る権利」と定義できます。
芸能人やスポーツ選手などは、ひとりの個人として肖像権やプライバシー権を持っていながらも、有名人であるがゆえに一般人とくらべるとその保護は緩やかになります。街頭に有名人がいた場合、数多くの通行人がスマートフォンのカメラで撮影する行為を例に考えてみればわかりやすいでしょう。同様の行為が一般人に対しておこなわれれば、重大な権利侵害になり得ます。しかし、有名人はこれをある程度は許容せざるを得ません。判例でも「有名人の人格的利益の保護は大幅に制限される」と示しています。
ただし、有名人・著名人の氏名や肖像は、一般人のそれと比較すると特別な経済的利益を持っており、当然に保護されるべきでしょう。このような解釈によって、パブリシティ権は誕生しました。昭和28年にアメリカの裁判所が判示したことで概念が創設され、日本では昭和51年に最初の判例が生まれました。
しかし、現状日本においてパブリシティ権は、個別の法令で定義や保護はなされていません。 -
(2)パブリシティ権の侵害が成立する条件
パブリシティ権を侵害し不法行為として違法になると解されるのは、下記のケースにおいて、「無断で使用」かつ「顧客の吸引力の利用を目的」にしている場合が該当すると最高裁で示されています。(最高裁判所 平成21(受)2056 平成24年2月2日)
- ①肖像等を独立させて鑑賞の対象となる商品等として使用する
- ②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に使用する
- ③肖像等を商品等の広告として使用する
ただし、表面的にはこれらの条件に合致するとしても、必ずパブリシティ権の侵害が認められるとはいえません。プロサッカー選手の活躍や生い立ちを記した書籍について、サッカー選手本人がパブリシティ権侵害を訴えて出版社を提訴した事例に注目してみましょう。
この事例では、書籍のタイトルにサッカー選手の氏名が使用され、表紙や本文中にもふんだんに本人の写真が使用されていました。ここで挙げた条件に従えばパブリシティ権の侵害が成立する状況はありますが、裁判所は「書籍の中心部分は『文章』であり、本人はこれを甘受すべきだ」と判示しました。
パブリシティ権侵害の成立は、使用方法や使用された対象の性質などによって慎重に判断されるものだといえます。
2、パブリシティ権と混同しやすい肖像権・著作権との違い
パブリシティ権を理解するうえで知っておきたいのが「肖像権」と「著作権」との違いです。これらの権利とパブリシティ権は、非常に密接な関係ながらも異なる性質を有しています。
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(1)肖像権との違い
肖像権とは「容姿などの肖像を無断で公表・使用されない権利」を指します。昨今ではSNSの普及によって広く注意がなされるようになった権利ですが、実は、肖像権は人権におけるひとつの考え方として定着しているのみで、パブリシティ権と同じように、成文法によって定義されたものではありません。
パブリシティ権と肖像権は、容姿などの肖像の使用という側面でとても近接しているように感じられるでしょう。しかし、パブリシティ権と肖像権では、「保護する利益」が異なります。肖像権は「肖像を無断で公表・使用されない」という人格的利益を優先した考え方に基づいています。一方、パブリシティ権はまったく同じ行為であっても「顧客吸引力に着目して使用される」ことに対抗するための財産的利益を保護しているのです。
正確には裁判所の慎重な判断が必要となりますが、両者の違いをまとめれば、次のように考えておけば差し支えないでしょう。- 肖像権は「人格的利益」を保護している
- パブリシティ権は「財産的利益」を保護している
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(2)著作権との違い
使用された写真や画像が「著作権によって保護されている」と考えれば、パブリシティ権と著作権も非常に近接したものだと考えられます。
ただし、著作権が保護しているのはあくまでも「創作物」であり、権利侵害を主張できるのも創作物の作者となります。たとえば、タレントの写真について焦点をあてれば、著作権を主張できるのはカメラマンであり、被写体となったタレントではないと考えられるのです。
このように考えれば、無断で使用された写真を、著作権によって保護するのは困難になるでしょう。経済的利益を侵害されている場合は、パブリシティ権によって侵害を主張するほうが適切だといえます。
一方で、著名人や有名人が自ら撮影した自己の写真などは、著作権による肖像の使用差し止めなどが可能です。どちらの権利侵害を主張するのが適切なのかは、対象が生成された経緯などを含めた慎重な判断が必要となるでしょう。
3、パブリシティ権の発生をケース別に解説
著名人や有名人の肖像を使用したいと考えている場合、どのようなケースでパブリシティ権が発生し、無断使用が侵害行為となるのかが気になるところです。ここでは具体的な例をあげて、パブリシティ権の発生をケース別に解説します。
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(1)パブリシティ権が発生するケース
パブリシティ権が発生するのは、対象の顧客吸引力に着目して無断で使用し、経済的利益を害した場合と考えられます。
たとえば、著名人や有名人の肖像を利用したブロマイドやカレンダーなどは、他の商品との差別化を肖像に頼るのみで、これといった特徴がありません。このような利用では、パブリシティ権の侵害を主張されるおそれがあります。 -
(2)パブリシティ権が発生しないケース
表面的にパブリシティ権が発生しそうなケースでも、パブリシティ権の主張が認められない可能性があります。次のようなケースが参考になるでしょう。
●報道に使用される場合
報道は、報道そのものに顧客吸引力があります。最新のニュースや特ダネをいち早く公開する、情報が正確であるといった評価によって視聴者数を稼ぐものであり、報道の対象となった著名人や有名人の肖像によって顧客を吸引するものではありません。誹謗中傷を目的とせず、事実に基づいておこなわれる報道については肖像の利用を受忍する必要があり、パブリシティ権も発生しないと考えられています。
●伝記などに使用される場合
先に例示したサッカー選手の生い立ちなどをつづった書籍のように、著名人や有名人の伝記は、伝記そのものに顧客吸引力があるため、パブリシティ権が生じないと解されています。
これらの事例に注目すると、著名人・有名人が持つ顧客吸引力にのみ頼った使用でない限り、パブリシティ権が発生する可能性は低いと考えられます。
4、パブリシティ権の侵害が心配な場合は弁護士に相談
著名人や有名人の肖像を使用したいが、パブリシティ権の侵害が心配な場合は、弁護士に相談しましょう。
使用を予定している肖像・写真・画像にパブリシティ権が発生するのか、使用方法がパブリシティ権の侵害に該当するのかを、法的な立場から詳しく分析してアドバイスが受けられます。
パブリシティ権の侵害問題を回避する方法としてもっとも現実的なのは、本人の許諾を受けることです。肖像に関するライセンス契約を結ぶ際には、契約書を吟味して、一方的に不利な条件ではないか、予定されている使用方法が可能かなどのチェックも大切です。こういった場面においても、弁護士のアドバイスが重要になります。
パブリシティ権は、明文化されていないがゆえに侵害の成立が慎重に判断されます。公開されている著名人や有名人の写真や画像を使用して侵害が成立することがあれば、必ずしも侵害が成立するともいえません。使用がトラブルにならないように、弁護士のアドバイスやサポートを受けて対策を講じるのが賢明でしょう。
5、まとめ
パブリシティ権は、成文法として明確になっているものではなく、しかも権利として定着した歴史が浅いため裁判所の判断も一定ではありません。安易に「有名人だから、これくらいは許されるだろう」と氏名や肖像を使用すると、パブリシティ権侵害として使用の差し止めや損害賠償請求を受けるおそれがあるため、弁護士のアドバイスを求めるべきでしょう。
ベリーベスト法律事務所 久留米オフィスでは、著名人や有名人の氏名・肖像の使用に関してパブリシティ権の侵害にあたらないかなどのアドバイスが可能です。権利侵害が発生しないためのライセンス契約締結に向けたサポートや契約書のリーガルチェック、実際に権利侵害を訴えられた場合の対応も可能なので、お気軽にご相談ください。
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