土地を無償使用する際は承諾書を残すべきか。必要性と記載方法とは
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土地を所有者から無償で借りて法人が利用するという事例は意外と数多く存在します。たとえば、久留米市内にある公園のうち南畑公園をはじめ5公園は、財務省より土地の無償貸付を受けて久留米市民が利用している土地なのです。
一般的には、借りる人が所有者に対して賃料を支払う際、賃貸借契約を結びその法律的な関係性を明文化していることでしょう。では、賃料を支払わず、土地を無償使用させてもらう場合、特に企業が他の企業や個人の土地を無償で使用する場合は、承諾書などの書類を取り交わしておくべきなのでしょうか。ここでは、企業が他者の土地を無償で使用する場合の承諾書など書類の必要性や、口頭だけでやり取りした場合のリスク、記載方法などを、久留米オフィスの弁護士が解説します。
1、無償利用する際の契約の名称は「使用貸借契約」
まずは、第三者の土地を無償使用する場合の契約の種類について解説します。
土地の所有者に賃料を支払って借りて土地を借りる際に結ぶ契約の名称は、ご存じのとおり、「賃貸借契約」と呼ばれます。他方、無償で借りる場合の契約は、「使用貸借契約」です。
民法第593条では、使用貸借契約を以下のように規定しています。
実のところ、令和2年3月31日までは、「借りなければ契約が成立しなかった」ものでした。そのため、企業が第三者に事業で使うための土地を借りるとき、「土地を借りる約束をして土地を使用する段取りをしていたにもかかわらず、借りようとしたら断られてしまった」という懸念がありました。
しかし、令和2年4月以降に実施された民法改正に伴い、「土地を無償使用する契約を結んだ時点で貸す義務が生じる」ことになります。したがって、貸主が借主に土地を無償で貸す約束をすれば「使用貸借契約」が結ばれたとみなされるため、無償使用に関するトラブルが回避しやすくなりました。
2、土地を無償で使用させてもらう場合、契約書や承諾書は必要?
では、土地を無償で使用させてもらう場合に契約書や承諾書の作成は必要でしょうか。契約書や承諾書の必要性や、文書を作成しなかった場合にリスクを確認しておきましょう。
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(1)契約書や承諾書がなくても契約は成立する
土地を無償で使用する場合の使用貸借契約は、「無償で貸すと約束した段階」で契約が成立します。どちらの場合も、文書の取り交わしは契約成立の条件ではありません。したがって、口約束だけでも問題ないとはいえます。
しかし、なるべく契約書や承諾書は作成すべきです。なぜならば、口約束や実際に土地を借りることで契約が成立したとしても、それを証明する証拠がないからです。具体的なリスクについては、次項で解説します。 -
(2)口約束だけだった場合のリスク
口約束だけで土地を無償利用することになり、契約書を作成しなかった場合のリスクを知っておきましょう。
たとえば、口約束で、「3年間無償で貸します」と言われていたのに、1年後に「無断で使われている」と主張されるおそれがあります。また、突如都合が変わって、「今すぐに出て行け」と主張されることもありうるでしょう。無償でいいと言われていたのに「賃料を支払わない」と不当な主張をされることも考えられます。
その場合、不本意かもしれませんが相手と争うことになります。しかし、「土地を無償で貸す」と約束した事実や期間などの証拠が残っていなければ、貸主の主張が通ってしまう可能性があるのです。
たとえば、貸主の要求通りに土地を明け渡さなければ、明け渡し訴訟を提起されることもあり、事業への影響は甚大です。土地の明け渡しについての争いにおいては、「契約の有無」が重要となります。
いずれにしても、承諾書や契約書がなければ、「土地を無償利用してもよい」という約束を交わしたという事実が証明できません。結果、大きなトラブルに発展する可能性があるのです。
法的な争いになった場合は、裁判費用など、多額の費用が必要となり解決までに数か月から数年の月日を要してしまうケースがあります。したがって、法律上は、契約書や承諾書を作成しなくても無償利用は可能といえますが、事業で使用するのならばなおさら、あらかじめ契約書を作成することを強くおすすめします。
3、使用貸借契約の承諾書や契約書とは?
使用貸借契約を文書に残す場合に作成するものは、承諾書や契約書です。それぞれの違いをごく簡単に説明すれば、以下のとおりです。
- 承諾書……一方の署名捺印が記載されているもの
- 契約書……双方が署名捺印をするもの
どちらも、土地を貸してくれた方が署名するので、「土地の無償利用を許可する」ことや、「利用期間」などを記載しておくことによって、貸主が承諾していることの証拠になり得ます。土地を借りる側にとっては、承諾書であっても契約書であっても、得られる効果は同等です。
特に貸す側にとっては、契約書にしておくことで土地の返還の条件や時期などを借主が同意することになります。一度無償利用を許可したら返してもらえないかもしれないという不安を抱えている場合は、安心材料になり得るでしょう。借主にとってはもちろん、貸主にとっても、契約書を取り交わしておいたほうがメリットは大きいのです。
4、承諾書、契約書の作成方法
土地を無償で使用する場合に取り交わす契約書には、以下の内容を盛り込んでおきます。
・タイトル
「土地使用貸借契約書」など、一目で何に関する契約書や承諾書であるかがわかるようにしておきます。
・貸主と借主の名前と契約締結について
借主や貸主の氏名と、契約を締結したことを明記しておきます。
・対象物件と使用目的、期間を明記
無償で借りる土地の所在、使用目的、借りる期間を明記しておきます。
・善管注意義務
借主は、借りた土地を管理者として維持管理する義務を負うことを明記します。
・費用負担について
土地の修繕費用や補修費用、税金などの負担先を明記します。貸主もしくは借主が、これらの費用を一切負担しないのであればその旨も明記します。
・免責・契約の失効
天災など、不可抗力で土地の使用ができなくなった場合は契約が失効するなどの事項を規定しておきます。
・禁止事項
土地の形状を変更することや、他者に使用貸借権を譲渡することなどの禁止事項を明記しておきます。
・解除
貸主が一方的に契約を解除できる場合を定めておきます。土地を取り決めた使用目的以外の使い方をした場合や、契約に違反した場合などです。
・管轄する裁判所
土地の無償使用に関して争いが起きたときに、管轄する裁判所を定めておきます。借主と貸主が異なる地域に居住している場合は、あらかじめ管轄する裁判所を規定しておく必要があります。
・貸主、借主の署名捺印
末尾に貸主、借主双方の署名捺印を行います。氏名だけでなく住所も記載します。
5、土地の無償使用に関する承諾書や契約書の作成を弁護士に依頼するメリット
土地の無償使用を行う際に作成する契約書類の作成は弁護士に依頼するのが得策です。ここではその理由を説明します。
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(1)法的に有効な承諾書、契約書が作成できる
インターネット上には使用貸借契約書のテンプレートが数多くアップロードされています。しかし、企業と個人の土地の無償使用に特化しているものはそれほど存在しません。
また、土地の無償使用の状況はケース・バイ・ケースでさまざまです。土地の形状や使用目的によってはテンプレートにない事項を定める必要があるものです。契約内容に漏れがあったら、トラブルが発生したときに対処ができなくなってしまいます。
しかし、弁護士に依頼すれば、個別の状況に即した承諾書や契約書が作成可能です。 -
(2)書類作成に貴重な人的リソースを割く必要がない
日頃から法律事務に携わっていない方にとって、契約書や承諾書の作成は困難です。ネット上のテンプレートを自社に即した形に作り替えるだけで時間がかかります。
しかし、弁護士に依頼すれば、必要事項を伝えるだけで法的に有効な契約書や承諾書を作成することができます。 -
(3)トラブルを予見した助言を受けることができる
土地を無償使用する場合は、さまざまな点に気を付けなければなりません。たとえば、他者に転貸してはならないことや、契約時に定めた使用目的以外の目的で使ってはならないことなどの約束をしたのではないでしょうか。
決められたことを守らなければ、契約を打ち切られすぐさま土地の明け渡しを求められる可能性があります。これらの注意事項は、個別の状況について異なりますが、弁護士であればそれぞれの状況にあわせて注意すべきことを助言することができます。
また、弁護士に相談しておくことで、書類の作成だけでなく今後起こり得るトラブルや、その対策について助言を受けることができます。企業として起こり得るリスクを知り、備えておくことは非常に重要なことです。予見し備えておくことで、万が一のことが起きてもトラブルを回避できる可能性を高めることができます。
6、まとめ
第三者から土地を無償で借りる契約は、使用貸借契約といいます。令和2年4月に改正民法が施行されたため、「土地を借りる約束をすると」契約が成立することになります。口頭で契約は成立するものの、トラブルを防止するためには、個別の状況に即した形の承諾書や契約書を作成することを強くおすすめします。
承諾書や契約書は、企業担当者でも作成可能ですが弁護士に依頼することで法的に有効で、起こりうるリスクを回避するための契約書を作成可能です。ベリーベスト法律事務所 久留米オフィスでは、リーズナブルな価格でいつでも相談できる顧問弁護士サービスを提供しています。土地の無償使用に関する相談や契約書作成などの対応も可能です。リスクに備えておくためにも、まずはお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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