トラック運転手も残業代を請求できる? 方法を弁護士が解説
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平成30年11月16日、福岡地裁は長距離トラック運転手として勤めていた男性5人が大島産業およびそのグループ会社へ請求した未払い残業代などについて、支払い義務を認めました。未払い残業代が約7000万円、付加金は約5000万円とかなりの金額と言えます。
トラック運転手は稼働量による歩合給が採用されていることが多く、歩合給が残業代代わりになっていることもあります。しかし、そうような場合も、「残業代」として本来は扱われない可能性もあります。つまり、残業代が未払いである可能性があるのです。
本記事では運送業を担うトラック運転手も残業代が支払われる理由と、その請求方法を久留米オフィスの弁護士が紹介します。
1、トラック運転手でも残業代は請求できる?
残業代は残業した時間あるいは日時に応じて支払われます。トラック運転手だから、といった職種による差別はありません。
トラック運転手は事業所の外で働いていることや、稼働に応じた歩合制がとられていることが多いことから、残業代の計算に手間がかかります。そのせいで、残業代計算でのミスが起きたり、労働者側の労働基準法に対する知識不足を悪用して残業代の支払い逃れをする経営者も存在します。
悪質な運送会社が残業代の支払いを拒んだり、残業代の存在をごまかしたりした場合もしっかり証拠を集めて取り戻しましょう。
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(1)残業代が出るのは時効消滅するまで
残業代は労働基準法で定められているため、使用者(経営者側)と労働者(従業員)の合意内容と関係なく支払われます。雇用はあくまで労働時間に対して給与を支払う契約であることを知りましょう。
残業代の請求時効は2年です。それより前の期間の残業代は時効消滅し、請求することができません。
令和2年4月1日の債権法改正に伴い、給与債権の消滅時効が5年に延ばされる予定です。それに伴い、残業代の消滅時効も5年となるか、または5年より短い期間での延長となるかは現在議論されているようです。
ただし、消滅時効が延びるとしても、法改正までは従前通り2年の消滅時効が適用されます。 -
(2)歩合給は残業代を否定しない
歩合給でも残業代は請求可能です。
「歩合給は成果に応じて支払うもので、残業代も含まれている」と主張する企業は少なくありません。確かに歩合給を払っている場合は成果に応じて給与が上がるので、残業代も賄えそうです。しかしこの主張は、成果の出ない人間には残業代を払わないと言っているも同然なのです。
これは明らかに労働基準法に反し、労働基準法の趣旨と異なります。
そもそも雇用契約における歩合制はインセンティブ制という基本給に歩合給を上乗せするタイプです。したがって基本給の部分には通常の雇用契約と同じく残業代が発生します。歩合給の部分は割増分だけ残業代が払われます。
万が一、基本給(固定給)がなく給与が全て歩合給で支払われる「完全歩合給制」となっていた場合、これは法律上違法とされていますので、すぐに弁護士などに相談しましょう。 -
(3)固定残業代の有効性を分ける基準は?
歩合制を採用していない運送会社でも「特別手当」や「みなし残業代」といった固定給で残業代の処理をしているケースが見られます。確かに残業が多い日も少ない日も同じ残業代を払うというシステムは一見効率的に見えます。
しかし、残業代はその月に発生した労働時間に応じて支払うことが義務として定められています。 よって固定残業代で支払えない分の残業代は上乗せで追加されるのです。しかも固定残業代は次の条件が求められます。
- 明らかに残業代であることが示されている
- ○○時間に相当する残業代であることが明示されている
相当する残業時間が明示されていない、あるいは残業代でない名目で支払われている場合は原則として「残業代を払っていない」ことになります。つまり残業代を全額請求し直せる可能性が生まれます。
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(4)待機時間は労働時間になるのか?
トラック運転手への残業代支払い逃れとして、待機時間を休憩時間として扱う手口が見られます。荷積み、荷下ろしといった運転していない時間も、働いている以上は賃金を受け取れます。さらに、何もせず待機している時間も労働時間にカウントできます。
労働基準法において、労働時間とは使用者の指揮命令下にある時間を指します。会社の命令で事業所などにとどまる必要があるなら間違いなく給与が発生します。仮眠をしている場合でも使用者の指揮命令下にあって労働に対応できる状態を強いられていれば労働時間なのです。
トラック運転手の場合は、事業所やトラックから自由に離れることができることが休憩時間の条件となります。
2、トラック運転手はどのように残業代計算するのか
トラック運転手でも他の労働者と同じく残業代を受け取れます。トラック運転以外にも業務があればそれらは全て労働時間です。歩合給でも固定残業制でも、働いた時間に満たない残業代を受け入れる義務はありません。
この章では残業代計算の手順と方法を紹介します。トラック運転手の場合は残業代計算が複雑になりやすいため、弁護士への依頼をおすすめします。
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(1)残業代は残業時間に基づいて計算される
残業代は残業時間に基づいて計算されます。実際の仕事成果や仕事内容に基づいて計算されるものではありません。なぜなら、労働時間=使用者の指揮命令下にあった時間だからです。
たとえ「仕事が遅いから残業代を払わない」と言われても、勤怠記録があればそれに基づいた残業代請求が可能です。逆に言えば残業時間の立証をできないと、働いた分の賃金請求が難しくなります。 -
(2)基本給部分の計算
基本給の部分は、労働基準法に応じて次のように残業代を計算することができます。残業代は時間単位で計算されるので、基本給を時給換算します。
- 1日8時間あるいは週40時間を超えて働いた分は、時間外手当として基本給の1.25倍が支払われる
- 深夜22時から翌朝5時まで働いた分は、深夜手当として基本給の1.25倍が支払われる。時間外手当と深夜手当はどちらも支払われる
- 法定休日に働いた分は、休日手当として基本給の1.35倍が支払われる。深夜手当と休日手当はどちらも支払われるが、時間外手当は支払われない。
残業代は時間外労働以外にも発生します。深夜と休日の割増賃金も要チェックです。
ちなみにインセンティブ制の場合、基本給が最低賃金を割っていることがあります。その場合は最低賃金に満たない分の給与を請求し、雇用契約を見直します。 -
(3)歩合給の計算
歩合給については「残業代も含めた給与」と判断されます。したがって歩合給で問題となる残業代は割増率の部分だけです。
よって、残業代を求める際には、次のようになります。
- その月の歩合給を、残業時間を含む総労働時間で割り、基礎時給を導く
- 1日8時間あるいは週40時間を超えて働いた分は、時間外手当として基礎時給の0.25倍が支払われる
- 深夜22時から翌朝5時まで働いた分は、深夜手当として基礎時給の0.25倍が支払われる。時間外手当と深夜手当はどちらも支払われる
- 法定休日に働いた分は、休日手当として基礎時給の0.35倍が支払われる。深夜手当と休日手当はどちらも支払われるが、時間外手当は支払われない。
歩合給は月によって異なるため、基礎時給も毎月計算します。
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(4)固定残業代との相殺
固定残業代が払われている場合は、すでに支払われた固定残業代と本来の残業代を相殺し、相殺しきれなかった部分のみ未払い残業代として請求します。
残業代の代わりとして支給されていたものが残業代と判断されないなら、残業代が一切支払われていないものとして請求します。
3、残業代請求の手順
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(1)残業があった証拠を集める
残業代を請求するには残業時間の立証が必要です。勤怠記録が証拠となることはいうまでもありません。しかし、残業代を払わない運送会社はタイムカードの改ざんを要求したり、そもそもトラック運転手はタイムカードが存在しなかったり、業務日報を廃棄したりすることが考えられます。
明確な業務記録でなくとも、残業が立証できそうなものはすべて証拠として確保してください。たとえば次のものが役に立ちます。
- 業務日報
- タコグラフ
- 無線記録
- メール記録
- 車内カメラやドライブレコーダー
- 領収証
- 仕事をしている写真
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(2)雇用契約書や給与明細を確認する
雇用契約書や給与明細は、今現在払われている残業代を確認する上で役立ちます。雇用契約書を見れば基本給や歩合給の内容、残業代の扱いが書かれています。もし雇用契約で残業代を払わない旨に同意した場合も、労働基準法によって契約が無効となるため通常通り残業代が払われます。
給与明細は「残業代は別の形で支払った」という主張への対抗手段となります。給与明細の項目に残業代と呼べるものがなければ、残業代が払われなかったことになります。 -
(3)残業代計算をして、請求書を出す
証拠が集まれば、こちらが主張できる限りの残業時間を確定してそれに応じた残業代を計算します。時間外手当、深夜手当、休日手当のいずれも忘れずに請求しましょう。請求できるのは、催告するまでの2年間に支払われた給与に関してです。
催告とは消滅時効を6か月停止させるための手続きですが、その1つとして内容証明郵便を用いた請求が認められています。内容証明郵便は配達した文書の内容を証明できる文書で、残業代請求したことを示します。
請求書の送付は時効を停止し、訴訟の必要性を訴えかける効果があります。 -
(4)示談
請求書を送付した結果、会社が話し合いに応じる場合は示談交渉に移ります。示談の結果としてお互いに合意できればそれで解決です。
示談は任意での話し合いで、実際の判決と異なる落着をします。裁判所を通さずに手早く解決できる点や、自由度の高い合意をできる点がメリットです。
一方で会社の人と話すプレッシャーがかかることや、相手の合意なくして解決しない点がデメリットです。1人での話し合いに自信がない場合や、相手と顔を合わせたくない場合は、弁護士があなたを代理できます。 -
(5)労働審判手続
示談が難しい時に使える手続きとして労働審判手続があります。労働審判手続は、労働審判委員が間に立ってお互いが主張をし、主張に基づいて出される労働審判にお互いが納得すれば解決となります。
労働審判手続は、労働審判委員が間に立つことで公平な話し合いをしやすくなる反面、わずか3回の審理で決まるため、労働者に不利な結論になることも考えられます。 -
(6)訴訟
労働審判手続でも解決しない、あるいは労働審判手続を選択しない場合は訴訟を行います。訴訟は裁判官による判決が出るため、事件に白黒がつきます。
ただし判決は覆せないため、入念な準備と主張の論理性が問われます。
労働審判や訴訟も弁護士の代理が可能です。高度な法的知識が求められることも多いため、弁護士などの専門家に依頼するのがよいでしょう。交渉の段階から弁護士に依頼しておくことで、その後労働審判、訴訟となった場合にも、そのまま継続して対応をしてもらえます。
お問い合わせください。
4、まとめ
運送業で長時間の運転を強いられるトラック運転手は、距離や時間に応じて残業代も高くなることが予想されます。残業代請求は歩合給でも固定残業制でもできますから自身の権利を大切にしましょう。
残業代計算や請求の際にお悩みなら、ベリーベスト法律事務所・久留米オフィスへご相談ください。経験豊富な弁護士があなたをサポートします。
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