「事業場外みなし労働時間制」であっても未払い残業代は会社に請求できる

2021年04月15日
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「事業場外みなし労働時間制」であっても未払い残業代は会社に請求できる

過度な残業は労働者の心身を破壊して、最悪の場合には過労死を招くことが周知されるようになってから、労働基準法を守らない会社に対する世間の目はますます厳しくなっています。
しかし、実際には、民間企業ではない役所や官公庁などですら、過度の残業が当たり前のものとなっているのです。
たとえば、令和2年の4月には、福岡市で新型コロナウイルス感染症の対応を行っていた保健所職員の約3割が、過労死ラインとされる100時間以上の残業をおこなっていたことが判明したのです。

民間企業であっても、特に外回りが中心の営業担当者の場合には、過度な残業が当然のように押し付けられることも多いものです。
さらには、会社から「わが社は事業場外みなし労働時間制なので、残業代は支給されない」といわれて、残業した分の給与が未払いにされてしまう事態もあります。
しかし、法律では、労働時間についても残業時間中に発生した給与についても、その扱いが厳しく定められて、会社側に対して様々な義務が課されています。逆に言えば、「事業場外みなし労働時間制」であっても、残業したぶんの給与を請求することは、法律で労働者に保障されている当然の権利なのです。

本コラムでは、事業場外みなし労働時間制の概要や考え方、残業代が支給されるケースなどについて、べリーベスト法律事務所久留米オフィスの弁護士が詳しく解説します。


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1、「事業場外みなし労働時間制」とは?

会社員として働いていると、会社が定めた労働時間や給料の決まりに疑問を感じても、法律の定めに意識が向かないことが多いのではないでしょうか。たとえば、「事業場外みなし労働時間制だから」といわれると、「それなら仕方がない」と引き下がってしまうこともあるでしょう。しかし、労働者自身が、しっかりと自身の雇用形態や給与体系を理解しておくことが大切です。

まずは、労働時間について法律でどのように規定されているのかを確認していきましょう。
ここでは「事業場外みなし労働時間制」の基本的な考え方や導入の条件を解説します。

  1. (1)事業場外みなし労働時間制の基本的な考え方

    事業場外みなし労働時間とは、会社の外で仕事をした場合、あらかじめ決められている所定の労働時間は、実際の勤務状況にかかわらず労働をしたとみなす制度を指します。

    会社内でデスクについて事務作業をする、工場や倉庫内で作業をするといった環境では、会社が「何時から何時まで働いたのか」を管理できます。ところが、営業担当などのように社外での営業活動が中心になると、会社は労働時間を把握するのが難しくなります。

    そこで、あらかじめ「何時間働いても所定の労働時間の勤務をしたとみなす」ことで、労働時間の管理を容易にするのが事業場外みなし労働時間制です。

    たとえば、事業場外みなし労働時間制が導入されている場合、所定の労働時間が8時間であれば、5時間しか働いていなくても、10時間働いても、8時間で計算されます。

  2. (2)事業場外みなし労働時間制を導入する条件

    事業場外みなし労働時間制は、あらかじめ決められた所定の労働時間で給料を計算します。会社側としては「残業が発生しても残業代を支払わなくていい」というメリットがあります。ただし、無制限にこの制度が導入できるようでは、定額使い放題のような状態になってしまい、労働者にとって大きな不利益が生じます。
    そこで、事業場外みなし労働時間制は、導入に際して一定の条件があります。

    労働基準法第38条の2第1項では、次の2つの条件が掲げられています。

    • 労働者が、労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事していること
    • 労働時間を算定し難いこと


    「事業場外で業務に従事する」とは、会社や事業所の外で業務にあたることをいいます。使用者による指揮監督が届かない状態であれば事業場外に該当しますが、次のケースは適用範囲外とされています。

    • 複数人のグループで事業場外における労働に従事している場合で、グループ内に労働時間を管理する者がいる
    • 無線・携帯電話で使用者から随時指示を受けながら労働に従事している
    • 事業場で当日の指示を受け、指示どおりに業務場外労働に従事して事業場に戻っている


    「労働時間を算定し難い」とは、出退勤や訪問先の訪問・退出時間などの管理ができず、業務内容についても労働者の裁量が認められている状態を指します。

    一方で、「タイムカードや日報などで労働時間が管理されている」「事業場外での労働内容が具体的に指示されている」といったケースでは、労働時間を「算定し難い」とはいえないので、事業場外みなし労働時間制は採用できません。

    また、18歳未満の労働者や妊娠中・産後1年を経過していない女性については、事業場外みなし労働時間制の対象外となっています。

2、事業場外みなし労働時間制が採用される職種

冒頭で例示したように、事業場外みなし労働時間制は外回りが多い営業職で採用されるケースが多数です。
そのほかでは、次のような職種でも採用されています。

  • 旅行会社の添乗員
  • 新聞社や出版社などの記者
  • 出張の機会が多い商社の社員
  • 在宅勤務の社員


これらの職種は、いずれも「会社の外」での勤務が多く労働時間の管理が難しいため、事業場外みなし労働時間制の採用が適切とされる傾向があります。ただし、職種によって一律に認められるわけではありません。

代表的な事例としては、旅行添乗員について「労働時間を算定し難いとはいえない」とした判決があります。(最高裁判所 平成24(受)1475 平成26年1月24日)

この事例では「事業場外での業務」であることは認められました。しかし、あらかじめ具体的な業務内容が指示されており、日報での業務管理や業務指示を受けるため常に携帯電話の電源を入れておくなどの状況がありました。この状況では「労働時間を算定し難い」とはいえないとされ、事業場外みなし労働時間制が認められず、会社側に残業代の支払いを命じています。

3、事業場外みなし労働時間制でも残業代は発生する!

事業場外みなし労働時間制では、あらかじめ決められている所定の労働時間分は、実際の勤務状況にかかわらず労働があったものとして給与が計算されます。このように説明すると「どれだけ働いても残業代がもらえない」と勘違いしてしまいそうですが、事業場外みなし労働時間制でも残業代が発生するケースがあります。

  1. (1)事業場内で労働に従事した場合

    事業場外みなし労働時間制が採用されている場合でも、事業場外での作業に加えて事業場内での労働にも従事した場合は、残業代が発生する可能性があります。

    労働基準法第32条の1には、使用者は労働者に対して1日につき8時間、1週間につき40時間を超えて労働させてはならないと定められています。これが「法定労働時間」と呼ばれるものですが、もし事業場外と事業場内の労働時間が法定労働時間を越えている場合、超過した時間は残業として扱われます。

    たとえば、所定の労働時間が8時間で実際に8時間の事業場外労働をしたあと、会社で1時間のデスクワークに従事すると、法定労働時間を越えた会社での1時間は残業になります。
    残業扱いになった時間は、1時間あたり1.25倍の割増賃金が支払われることになります。

  2. (2)通常必要な労働時間が所定の労働時間を超える場合

    事業場外みなし労働時間制では、所定の労働時間が基準となるため、実際に勤務した時間を問わず「所定の時間は働いた」ということになります。しかし、所定の労働時間が8時間でも、業務を遂行するためには常に10時間の労働を強いられているといったケースもあるでしょう。

    事業場外みなし労働時間制では、業務を遂行するために通常必要な労働時間については、労働時間としてカウントされます。つまり、所定の労働時間を越えた分は残業扱いとなるのです。先の例で考えると、所定の労働時間をオーバーしている2時間分が残業扱いとなり、残業代が支給されます。

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4、未払い残業代の請求は弁護士に相談を

勤務先が事業場外みなし労働時間制を採用していることを理由に、労働に対して残業代を支払ってくれない場合は、早急に弁護士に相談しましょう。

労働関係の法令やトラブルの解決実績が豊富な弁護士であれば、実際の勤務状況に照らして残業代が発生するケースなのか否かを適切に判断してくれます。
残業代が発生するケースに該当すれば、過去2年分の未払い残業代を請求できますが、未払い残業代の算出や根拠となる証拠をそろえる作業は、手間と時間がかかります。この点においても、弁護士に依頼すれば就業規則や実際の勤務状況などを照らし合わせて、実際にどれだけの未払い残業代が発生しているのかを正確に算出できるでしょう。

また、未払い残業代の請求は、従業員が個人でおこなっても「会社の決まりだから」などと軽く受け流されてしまい、交渉にすら応じてもらえないというケースもあります。しかし、弁護士が代理人として交渉を行うと、会社の姿勢が一変して交渉に応じるということも少なくありません。
訴訟に発展した場合も、弁護士のサポートを受けていれば裁判所に提出する証拠の収集や訴訟の対応も一任できるので、安心して未払い残業代を請求できるでしょう。

5、まとめ

事業場外みなし労働時間制は、フレキシブルな勤務形態となる職種の労働者にとって、1日の労働時間が保証されているというメリットがあります。また、会社にとしては、労働時間が長い日と短い日が不規則な従業員の人件費を効率的に削減するとともに、給与計算も容易になります。
ただし、事業場外みなし労働時間制を採用していることを悪用し、長時間の勤務に対して残業代を支払わないという会社も少なからず存在しているのです。

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