贖罪寄付に効果はあるのか? 供託との違いや寄付が効果を発揮するとき
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福岡県警察は、ホームページ上で県内各市区町村別の刑法犯認知件数を公開しています。
令和元(平成31)年中の久留米市における認知件数は1998件で、行政区の別を無視した場合、圧倒的に人口が多い福岡市・北九州市に次いで第3位にランクインしています。この統計を見る限り、久留米市は刑法犯として検挙・刑罰を受ける方が少なくないエリアだといえるでしょう。
罪を犯すと法律が定める範囲で刑罰が下されます。その範囲のなかで「どの程度の刑罰となるのか」は、本人の反省や謝罪、賠償の有無が大きく影響しますが、なかには被害者が存在せず、謝罪や賠償がかなわない犯罪もあります。
ここで刑罰の軽減に向けて効果を発揮するのが「贖罪寄付(しょくざいきふ)」です。本コラムでは、「贖罪寄付」の概要や効果、贖罪寄付を検討すべきケースなどを、久留米オフィスの弁護士が解説します。
1、贖罪寄付とは
犯罪の加害者として罪に問われると、法律が定めている範囲内で刑罰が下されます。
実際に下される量刑を軽減させる方策として有効なのが「示談」ですが、そのほかの方法として「贖罪寄付(しょくざいきふ)」が存在します。
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(1)贖罪寄付の概要
贖罪寄付とは、罪を犯したことに対する「償い」の気持ちを表明し、各種の団体・機関に対して寄付を行うことをいいます。
「どこにでも寄付すればよい」というものではなく、寄付先は犯罪被害者の支援や法律援助事業といった公益目的のある次のような団体に限られます。
- 日本弁護士連合会(日弁連)
- 東京弁護士会をはじめとした各地の弁護士会
- 日本司法支援センター 法テラス
- 日本財団
- 犯罪被害者の支援団体やNPO・NGOなど
一方で、団体の目的や趣旨によっては贖罪寄付を断られる場合もあります。たとえば、災害や紛争被害の復興支援や世界中の子どもたちへの支援事業を目的としている日本ユニセフ協会では「団体の趣旨と異なる」ことを理由に受け取りを辞退しています。
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(2)贖罪寄付をすることの効果
贖罪寄付は、罪を犯した事実について「深く反省している」という意思を示す効果があり、情状面で有利にはたらきます。
反省の弁なら、警察や検察官の取り調べや刑事裁判の場でも述べることが可能ですが、言葉にするだけでは反省の程度は伝わらないでしょう。しかし、金銭的な負担を受けてでも行動で示せば、検察官や裁判官から「反省している」との評価が得られる可能性があるわけです。
贖罪寄付をすると、寄付を受けた団体・機関から「贖罪寄付証明書」が交付されます。検察官が起訴・不起訴を検討している段階でこれを提出すれば、検察官が不起訴処分を下す材料となり得ます。また、すでに起訴されて刑事裁判の被告人となってしまった段階でも、裁判官に提出することで、情状面で有利にはたらき、量刑が減軽される可能性があります。 -
(3)贖罪寄付の注意点
贖罪寄付には、示談成立のような重大な効果は期待できません。検察官や裁判官に反省の意思は伝わるかもしれませんが、被害者に届くお金ではないからです。贖罪寄付をしたからといって、必ず検察官が不起訴処分を下すわけでも、懲役刑が執行猶予や罰金刑になるわけでもありません。
このように説明すると「贖罪寄付をしても意味がないのでは?」と感じる方も多いでしょう。しかし、日弁連が平成26年におこなったアンケートによると、弁護士の8割が「贖罪寄付が情状として考慮された」と回答しています。このアンケート結果を見ると、贖罪寄付は決して無意味ではないといえるでしょう。
2、供託と贖罪寄付の違い
贖罪寄付と混同しやすい制度として「供託」が挙げられます。
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(1)供託とは?
供託とは、民法第494条に基づく制度です。
債権者が弁済の受領を拒んだ場合、債務者は弁済の目的物を供託することでその債務を免れることができます。
ここでいう債権者とは犯罪の被害者、債務者とは犯罪の加害者だと考えればよいでしょう。
被害者が示談金や賠償金の受領を拒んだ場合に、加害者がそのお金を法務局に供託すれば、被害者はいつでも供託金を受領できます。 -
(2)供託の効果
示談金や賠償金を供託すれば、被害者はいつでも供託金を受領できる状態になります。
つまり、加害者にとっては被害者にお金を支払ったのと同じ状態です。
供託には、贖罪寄付と同様に「反省を行動で示している」と評価され、情状面で有利にはたらきます。 -
(3)供託と贖罪寄付の違い
加害者が金銭を負担するという意味では、供託と贖罪寄付はよく似た制度です。
ただし、供託では被害者あての示談金や賠償金を法務局に預けることになりますが、贖罪寄付では各種の団体・機関に寄付するため「お金が渡る先」が違います。
また、供託は被害者が存在する犯罪でのみ可能な手続きですが、贖罪寄付は被害者の有無を問いません。
3、贖罪寄付を検討すべきケース
前述のとおり、贖罪寄付には示談成立ほどの効果は期待できません。ただし、状況次第では贖罪寄付が重大な効果を発揮するので、積極的に贖罪寄付を活用するべきでしょう。
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(1)被害者が存在しない犯罪で罪に問われている
すべての犯罪に被害者が存在しているわけではありません。たとえば、覚せい剤などの違法薬物事件、贈収賄事件や選挙違反事件などは、被害者が存在しない犯罪の代表例でしょう。
また、公務執行妨害事件では、妨害を受けた公務所の長などが被害者となりますが、公的機関には犯罪を告発する義務が課せられているという性質上、示談は受け入れられません。
これらの事件を起こして罪に問われているケースでは示談も供託もできないので、贖罪寄付によって情状面の補強を目指しましょう。 -
(2)被害者が示談に応じてくれない
被害者が存在する事件でも、被害者が示談交渉をかたくなに拒んでいる、示談金の額に折り合いがつかず交渉が頓挫してしまったなどのケースでは、供託か贖罪寄付のいずれかの方法をとることになるでしょう。
「示談交渉を続けて許しを得る努力をした」と示すためには、供託が効果を発揮します。被害者の気が変われば示談金や賠償金がいつでも受け取り可能な状態であるため、示談成立に近い効果が期待できます。
一方で、犯罪の重さに対して供託金が著しく少額であれば、反省の意思を示すどころか被害者の怒りを買ってしまう危険もあるでしょう。被害者が望む金額を大幅に下回る範囲でしか供託できない場合は、贖罪寄付のほうが効果を発揮する可能性があります。
供託が有効なのか、それとも贖罪寄付をするべきなのかの判断は容易ではありません。刑事事件の解決実績が高い弁護士に相談して決めることをおすすめします。
4、刑罰・処分の軽減を目指すなら弁護士に相談を
犯罪事件を起こしてしまい、検察官の起訴を回避したい、刑罰の減軽を目指したいと考えている方は、被害者との示談成立を目指すのが最善策です。
ただし、すべての被害者が示談交渉に応じてくれるわけではありません。被害者が示談を拒否した場合や示談金の金額面で折り合いがつかない場合は、供託という手段もあります。また、被害者が存在しない事件では、贖罪寄付が効果を発揮する可能性もあるでしょう。
示談による解決が期待できない場合は、供託・贖罪寄付のいずれかによって情状面を有利にはこぶ対策が必要です。しかし、法律の知識や経験がない一般個人にどちらの方法が有効なのかを判断するのは困難だと言わざるを得ません。
示談・供託・贖罪寄付のどの方法で事件を有利にはこぶのかの判断は、弁護士にアドバイスを求めましょう。
刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士であれば、被害者との示談交渉が難航している事件や、被害者が存在しない事件についても情状面で有利となる材料を探すことが可能です。贖罪寄付が有効になるのかのアドバイスや、適切な寄付先の紹介でもサポートが受けられるので、まずは弁護士への相談を検討しましょう。
お問い合わせください。
5、まとめ
覚せい剤事件や選挙事件などのように被害者が存在しない事件では、贖罪寄付によって反省の意思を行動で示すことで、検察官や裁判官が処分を下すにあたっての情状面で有利な判断を得やすくなります。
ただし、贖罪寄付では示談成立ほどの重大な効果は得られず、処分が軽減される程度もさほど大きくはありません。被害者が存在する事件では、弁護士に示談交渉を依頼して示談成立を第一に目指したほうがよいでしょう。それでも示談が難航すれば供託を、供託でも解決が目指せない場合は贖罪寄付をといった段階的な判断が必要です。
犯罪事件を起こしてしまい、不起訴処分や有利な判決を得たいとお考えであれば、ベリーベスト法律事務所 久留米オフィスにお任せください。刑事事件の弁護実績を豊富にもつ弁護士が、適切な方法で処分の軽減に向けて全力でサポートします。
贖罪寄付が有効であるかの判断や適切な寄付先の紹介といったサポートも可能です。まずはお気軽にベリーベスト法律事務所 久留米オフィスにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています