逮捕令状には期間がある|「令状」についての基礎知識を解説
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久留米市における犯罪の認知件数は減少傾向にあります。令和4年の刑法犯認知件数は1435件で、年によって多少の増減はあるものの、過去10年でみると3分の1程度に減少しました。この数字をみると「久留米市の治安は向上した」といえるでしょう。
治安の向上は、平穏な生活を望む市民にとって喜ばしいことです。しかし、罪を犯してしまった人にとっては「警察が強い姿勢で臨んでいる」ということでもあるため、恐怖を感じてしまうかもしれません。とくに、警察が「令状」を取得して捜査に臨む場合は、犯罪行為をしてしまった人は不利益を回避するために適切に対処する必要があります。
本コラムでは刑事事件における「令状」について、令状の基本的な仕組みや種類と有効期間などを、ベリーベスト法律事務所 久留米オフィスの弁護士が解説します。
1、刑事事件における「令状」とは? 仕組み・種類・有効期間を解説
刑事ドラマなどで容疑者が「令状はあるのか?」と抵抗したり、ドキュメント映像などで「令状を持ってこい!」と食い下がったりするシーンを目にしたことがある方は多いでしょう。
以下では、刑事事件における「令状」について、概要を解説します。
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(1)「令状」とは?
刑事事件における「令状」とは、裁判官が警察や検察官といった捜査機関に対して一定の強制処分を認める許可状を指します。
警察や検察官には犯罪を捜査する権限が与えられていますが、捜査のためならどんなことをしても許されるというわけではありません。
日本国憲法が保障している基本的人権を侵すことは許されないため、捜査に際して公平・中立であり、かつ深い法律の知識をもつ裁判官がチェックする体制が整えられています。
これを「令状主義」といいます。
ただし、令状が求められるのは、国民の権利を強く制限する捜査手続きに限られています。
たとえば街頭で行われる職務質問、事件について何らかの情報を知っている人に対する取り調べや事情聴取、交通取り締まりといった活動は、任意の手段で行われている限り令状を要しないのです。 -
(2)令状の種類
裁判官が発付する令状には、いくつかの種類があります。
以下では、代表的な令状について解説します。
・ 逮捕状
逮捕状は、犯罪の容疑がある人の身柄を拘束する「逮捕」を許可する令状です。
逮捕状を必要とするのは、事前に裁判官による審査を要する通常逮捕と、緊急性が高く重大な犯罪について後で令状を請求することを条件に裁判官による審査を事後にする緊急逮捕が行われる場合に限られます。
罪を犯したその時にその場で執行される現行犯逮捕では、逮捕状は不要です。
・ 捜索差押許可状
捜索差押許可状は、捜査のため他人の住居などに立ち入って証拠物を捜索し、これを強制的に押収することの許可状です。
いわゆる「家宅捜索」は、この令状にもとづいて行われます。
捜索のみの「捜索許可状」や差押えのみの「差押許可状」も存在します。
なお、逮捕に伴ってその場で行われる捜索・差押えは令状を要しません。
・ 身体検査令状
身体検査令状は、人の身体の状況を強制的に確認する捜査を許可する令状です。
たとえば容疑者の衣服を強制的に脱がせて証拠品がないかを確認するといった行為では、本令状が必要になります。
また、飲酒運転などの容疑で強制的に血液を採取する際にも、本令状が必要になります。
・ 検証許可状
検証許可状は、場所・人・物などについて、その存在や性質、形状、状態を五官の作用を用いて確認する捜査を許可する令状です。
この捜査が任意のもとで行われる場合は「実況見分」と呼ばれますが、強制的に実施する場合は検証許可状の発付が求められます。
・ 鑑定処分許可状
鑑定処分許可状は、捜査機関が押収した証拠物について、鑑定のために状態を変えたり、消費させたりすることに対する許可状です。
たとえば、身体検査令状にもとづいて採取した血液について鑑定を実施すると血液を消費するので、鑑定処分許可状が必要になります。 -
(3)令状には有効期間がある
令状の有効期間は、原則として令状が発付された日から7日間です。
有効期間内に執行できなかった令状は、裁判所に返還しなければなりません。
ただし、有効期間が過ぎても、捜査機関は「なぜ期間内に執行できなかったのか?」の理由を付して再請求すれば、更新を受けることができます。
また、再請求の際は、裁判官が相当と認めれば7日を超える期間を定めることが認められているのです。
たとえば、逮捕状が発付された容疑者が逃亡して居場所がわからなくなった場合、最初の逮捕状は7日間で失効しますが、間隙(かんげき)がないように再請求されます。
さらに、更新された逮捕状の期限は7日間よりも長くなる可能性が高いため、逃げ回ったからといって「期限切れなので逮捕されない」といった展開は望めないと認識しておきましょう。
2、「令状あり」の逮捕や捜索は拒否できる? 捜査を拒むとどうなるのか?
逮捕や家宅捜索といった強制捜査は、なんの事前告知もなく、突然行われます。
以下では、仕事や学校、家族との用事などがあるために捜査に応じられない場合はどうなるのかについて解説します。
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(1)令状で許可されている範囲の処分は拒否できない
令状にもとづいて行われる逮捕や捜索などは、裁判官の許可を受けた強制捜査です。
「これから仕事に行かなくてはならない」「家族と出かける約束をしている」「来客の予定があるので自宅には入ってほしくない」などの事情は考慮されません。
これらの事情は、いずれも国民に等しく保障されている自由です。
しかし、その自由を許すことと、犯罪の容疑があり逃亡や証拠隠滅を防いで正しく刑事手続きを受けさせることを秤(はかり)にかけたうえで、裁判官が「強制処分もやむを得ない」と判断した場合には、自由が制限されることになるのです。 -
(2)許可されていない範囲の処分は許されない
令状が発付された場合、国民の自由を強く制限する手段であっても強制的に捜査を進めることが許されます。
ただし、令状があるからという理由でなんでも許容されるわけではありません。
令状によって許可されるのは、令状に記載されている範囲の処分だけです。
たとえば、捜索・差押許可状の発付しか受けていない場合は、たとえ犯罪の決定的な証拠を発見しても所持そのもので現行犯逮捕できない限り、逮捕は許されません。 -
(3)令状による逮捕・捜索を拒否するとどうなるのか?
令状によって許可されている逮捕や捜索などの捜査は拒否できません。
たとえ抵抗しても、令状の執行に必要とされる範囲での強制力が許されているので、抵抗を無視して執行されるか、あるいは身体を取り押さえられてしまうでしょう。
また、捜査員に対して暴行や脅迫を加えた場合は、刑法第95条1項の「公務執行妨害罪」に問われてしまうおそれもあります。
3、逮捕されたときに呼ぶことができる弁護士の種類
罪を犯すと、逃亡や証拠隠滅を防ぐために逮捕状が請求されて逮捕される可能性があります。
逮捕されたとき、まず取るべき対応は「弁護士を呼ぶこと」です。
以下では、逮捕されたときに呼ぶことのできる弁護士の種類を解説します。
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(1)当番弁護士
日常生活のなかで、弁護士と関わりをもつ機会は多くないでしょう。
そのため、「弁護士を呼ぶ」といっても、とくに心当たりもないという人のほうが多数であるはずです。
すぐに呼んで相談できる弁護士に心当たりがない場合には、各弁護士会による「当番弁護士」制度の利用をおすすめします。
逮捕後、一度に限り弁護士会が無料で弁護士を派遣してくれる制度であり、今後の刑事手続きの流れや事件の見通しなどについて、アドバイスが得られます。
逮捕された人であれば誰でも無条件で利用できるので、まずは「これからどうなるのか?」を知る機会として活用してください。
令和4年の弁護士白書によると、令和3年中には全国で3万6253件の受付がありました。
当番弁護士制度が活発に利用されている状況がうかがえますが、利用できるのは一度限りであるため、継続的な弁護活動が期待できないという欠点があることも認識しておいてください。 -
(2)国選弁護人
資力が乏しいため弁護人を選任するのが難しい人について、国が費用を負担して弁護人を選任してくれるのが「被疑者国選弁護制度」です。
決して安くはない弁護士費用の負担がなくなり、誰でも弁護人のサポートが得られるという点では有意義な制度といえます。
ただし、容疑をかけられている被疑者の段階で国選弁護人制度を利用できるのは、逮捕された後に勾留が決定した人だけです。
たとえば、逮捕後に釈放されて任意の在宅事件に切り替えられた場合、本制度は利用できません。
身柄拘束の長期化を防ぐには、最大20日間にわたる勾留の回避が重要なので、逮捕直後に利用できないという点は大きな不利益といえます。
また、国選弁護人制度では裁判所・裁判長・裁判官が弁護人を選任するため、自分で弁護士を選ぶことができません。
必ず刑事事件の弁護実績が豊富な弁護士が選任されるとは限らないという点も、認識しておく必要があります。 -
(3)私選弁護人
容疑をかけられている人が自ら選任して委任契約を結ぶのが「私選弁護人」です。
弁護士費用は自己負担になりますが、刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士にサポートを依頼できるという点で、大きなメリットがあります。
私選弁護人であれば、当番弁護士のように回数が制限されることも、国選弁護人のように選任できるタイミングが遅くなることもありません。
まだ逮捕されていないものの今後は逮捕が予想されるという状況でも、私選弁護人を選任して迅速に弁護活動を行ってもらうことで、逮捕を回避しやすくなります。
なお、弁護士に心当たりがない場合でも、弁護士会を通じて私選弁護人の紹介を受けることができます。
逮捕されたら、当番弁護士の依頼とあわせて、私選弁護人の選任申出制度の利用も検討しましょう。
お問い合わせください。
4、警察に逮捕されるとどうなる? 逮捕から送検までの流れ
以下では、警察に逮捕されてから送検まで、刑事手続きの流れを解説します。
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(1)警察による48時間以内の身柄拘束
警察に逮捕されると、ただちに警察署へと連行されます。
逮捕を告げられた時点から身柄拘束が始まるので「一度会社に立ち寄ってほしい」「家族が帰るまで待ってほしい」といった要望は聞き入れてもらえません。
また、警察署に到着すると、まず逮捕の理由となった犯罪についての弁解を聴く「弁解録取(べんかいろくしゅ)」が行われた後、警察署内の留置場への収容手続きが行われます。
健康状態のチェックなどもあるので、持病などの不安がある場合は遠慮なく担当官に申し出ることが大切です。
留置場での収用手続きを終えると、取調室に連行されて事件に関する取り調べを受けます。
罪を犯したことの認否や犯行の状況などに加えて、自分の身の上や学歴・職歴などの質問を受けたうえで、その結果は「供述調書」という書面にまとめられます。
また、警察の段階における身柄拘束の限界は48時間以内です。
警察は、48時間を超えるまでに逮捕した容疑者の身柄と捜査書類を検察官に引き継ぐか、釈放を行う必要があります。 -
(2)検察官による24時間以内の身柄拘束
警察から検察官へと身柄と捜査書類が引き継がれる手続きを「送致」といいます。
正しくは「検察官送致」といいますが、ニュースなどではこれを省略して「送検」という名称が用いられています。
送致を受理した検察官は、自らも取り調べを行い、容疑者を勾留するか、それとも釈放するかを24時間以内に決めなくてはなりません。
逮捕から間もないタイミングでは起訴・不起訴という重大な判断を下すのは難しいため、多くの事件では、捜査のために引き続き身柄を拘束できるよう裁判官に「勾留」の許可を求めます。
ここまでが、逮捕による身柄拘束の効力です。
逮捕から数えると、48時間+24時間=最大72時間にわたって社会から隔離された状態が続きます。 -
(3)逮捕から72時間が経過した後の流れ
逮捕による身柄拘束を受けて72時間が経過した後は、勾留による身柄拘束が始まります。
勾留の期間は10日間ですが、10日間で捜査を遂げられなかった場合は検察官からの請求によって一度に限り延長が可能です。
延長されるのは10日間以内であるため、勾留の期間は最短で10日間、延長を含めると最長で20日間となります。
勾留が満期を迎える日までに検察官が起訴すると刑事裁判へと移行して、被告人としてさらに勾留されたうえで、有罪判決を受ければ刑罰が科せられます。
一方で、ここで検察官が不起訴を選択した場合は刑事裁判が開かれません。
引き続き身柄を拘束する必要もなくなるので、不起訴と判断された場合は釈放されます。
日本の法律では公平な裁判手続きを経なければ刑罰を科せられないので、懲役や禁錮、罰金といった刑罰を受けることなく社会復帰が実現します。
5、まとめ
刑事事件における「令状」には、逮捕状や捜索・差押許可状などの種類があります。
令状にもとづく捜査は、裁判官の許可を受けて執行されるものであり、強い強制力をもっていますが、いずれも有効期間は7日間です。
ただし、捜査機関は令状を執行できなくても期限が過ぎるまでに再請求して更新するので、有効期間が過ぎるまで逃げても強制捜査は避けることはできないと認識しておく必要があります。
強制捜査を避けたいと望むなら、捜査機関が令状の発付を受けるよりも前に弁護士に相談して、サポートを求めることが大切です。
まずは、ベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
経験豊富な弁護士が、穏便な解決を目指すための対応を行います。
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