偽装離婚で借金返済を免れることは可能? 発覚した場合のリスクとは

2021年03月15日
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偽装離婚で借金返済を免れることは可能? 発覚した場合のリスクとは

福岡県が公表している経済動向では、令和元年度中に負債1000万円以上をのこして倒産した県内の企業は373社あることが公表されています。

企業の倒産は、保証人になっている事業主個人にも多大な借金をのこす可能性があります。その借金は、家族全体にとっても多大な負担となりかねません。借金の返済に追いつめられてしまった債務者のなかには、「偽装離婚をして財産を配偶者に分与してから自己破産をすれば、財産を守ることができるのでは?」と思ってしまう方もおられるかもしれません。

本コラムでは、「偽装離婚で借金返済を免れられるのか?」について、ベリーベスト法律事務所 久留米オフィスの弁護士が解説します。

1、妻は夫の借金を返済しなければならないのか?

「夫婦の片方が借金を背負ったら、その配偶者にも返済義務が生じる」と考えている方は多いかと思われます。しかし、実際には、配偶者の借金を返済する義務は基本的には存在しないのです。
まず、夫婦と借金の返済義務の関係について、解説します。

  1. (1)基本的に妻は返済義務を負わない

    多くの夫婦は、共働きであっても収入を共同管理して、家計に関する責任を共同で分担しています。そのため、夫が借金をしたなら妻にもその借金の返済義務が生じる、と考える方もおられるでしょう。

    しかし、夫婦の一方が借金をしたとしても、他方にその借金についての返済義務が生じることは、基本的にはありません。たとえ借金を返済できずに夫が自己破産したとしても、法律上、妻には自分の財産を清算する義務があるわけではないのです

  2. (2)妻が返済義務を負うことがある例外

    借金のなかには、「日常家事債務」に該当するものがあります。「日常家事債務」とは、夫婦が日常生活を送るうえで欠かせない費用のための借金のことです。具体的には、食費・光熱費・養育費・教育費・医療費などが含まれます。

    この「日常家事債務」については、例外的に、夫婦の一方がした借金であっても他方が連帯して返済義務を負うことが民法で規定されています(民法第761条)。そのため、たとえば子どもの学費のために夫が借金した場合には、その借金を返済する義務が妻にも生じる可能性があるでしょう。

  3. (3)保証人になっている場合には返済義務が生じる

    上述したように、夫婦関係から生じる借金の返済義務は、基本的には「日常家事債務」に対してのものだけとなります。

    しかし、妻が夫の借金の保証人になっている場合には、保証人としての返済義務が生じるのです。「保証人」であることから生じる返済義務は、夫婦関係であることとは別に存在します。そのため、仮に離婚して夫婦関係を解消した場合でも、保証人としての返済義務が消失することはありません。つまり、返済義務が生じるため、妻が保証人になっている場合、支払う必要があるのです

2、偽装離婚で借金返済を免れられる?

借金を背負った夫婦が偽装離婚を行う場合、「一方の配偶者に財産を分与したあとに自己破産を行い、財産をのこしながら借金を解消する」というもくろみによるものであることが多いようです。
偽装離婚の目的について、解説します。

  1. (1)偽装離婚とは

    偽装離婚とは、実質的な夫婦関係を終了させる意図のない男女が役所に離婚届を提出して、形式上の離婚を成立させることをいいます。
    当人たちに夫婦関係を終了させる意思がなくても、離婚届を提出すれば離婚は有効となるのです
    そのため、たとえば偽装離婚後に妻が心変わりして別の男性と再婚した場合に、夫が「離婚は偽装だから無効だ」と主張しても妻の再婚をやめさせることができない、という事態が生じる可能性もあります。

  2. (2)偽装離婚の目的

    偽装離婚は、借金逃れのほかにもさまざまな目的で行われることがあります。
    たとえば、お互いの収入を合わせると生活保護を受け取れる基準を上回ってしまう夫婦が、偽装離婚をして世帯収入を分散することで生活保護費を不正受給する、という事例があります。
    また、ひとり親の子どもは保育園の入園の優先順位が高くなることから、子どもを保育園に入園させるために一時的に偽装離婚する、という事例もあるようです。

  3. (3)偽装離婚で借金返済を免れられる?

    上述したように、婚姻関係であっても保証人になっていなければ、配偶者が事業のために行った借金の返済義務は生じません。
    そのため、離婚をしてもしなくても、夫の借金を返済する義務は妻にはないのです。
    ただし、離婚の際に財産分与や慰謝料などの名目で夫が妻に過大な財産を渡すことで、債権者から財産を隠す、という目的で偽装離婚が行われる場合があります。
    このような事例では、「偽装離婚後に夫が自己破産をして借金の返済義務をなくして、その後は妻のもとに移した財産をつかって夫婦で生活していく」ことができるように思われるかもしれません。
    しかし、後述するように、財産隠しのための過大な財産分与は取り消されてしまう可能性が高いだけではなく、その後の人生にも影響しかねないリスクが高い行為であるといえます

3、偽装離婚のリスクや刑罰とは?

財産分与をして債権者から財産を隠すための偽装離婚には、次のようなリスクが存在します。

  1. (1)詐害行為として取り消される

    通常、離婚時の財産分与では、婚姻期間中に築いた財産の2分の1程度までの分与が認められる傾向にあります。それを大幅に超える財産分与は裁判所に不当だと判断されて、取り消されてしまう可能性があるでしょう。
    また、債務者が不当に過大な財産分与を行うと、借金の債権者は本来なら受けられるはずの返済を受けられなくなってしまいます。しかし、借金の債権者は「詐害行為取消権」を持っています。詐害行為取消権とは、債権者の権利を妨害するために行われた行為を取り消すことができる権利です。借金をしている場合における偽装離婚は、返済を逃れるために、所持している財産を財産分与などによって配偶者へ引き渡す行為などが詐害行為をしたとみなされる可能性が高いでしょう。つまり、債務者が過大な財産分与を行ったとき、債権者はその財産分与の取り消しを裁判所に請求することができるのです
    さらに、裁判所から選任された破産管財人によって否認権が行使された場合にも、財産分与が取り消されることになります。

  2. (2)自己破産の免責が認められなくなる

    債務者が自己破産を申し立てると、債権者のために財産などを清算する手続きと並行して、債務者の債務をなくすための免責手続きが行われます。自己破産とは、免責手続きを通じて「免責不許可事由」がないとされると、借金を支払う義務がなくなるという手続きです。

    しかし、偽装離婚によって財産を隠そうとすることは、「破産手続きの妨害」という免責不許可事由に該当すると判断される可能性があります。そのために免責が認められず、自己破産しても借金の返済義務がなくならないおそれがあるのです。

  3. (3)詐欺破産罪などの破産犯罪に問われる

    債務者が不正な方法で破産することを防ぐため、破産法ではさまざまな破産犯罪が定められています。「詐欺破産罪」は破産犯罪のなかでも典型的なものであり、債務者が債権者に不利益を与える目的で財産を意図的に隠匿したり財産を損壊したりする罪のことを指します。
    偽装離婚においても詐欺破産罪が成立する場合があり、「10年以下の懲役または1000万円以下の罰金もしくはその両方」という重い刑罰が科されるおそれがあるのです。

  4. (4)強制執行妨害罪に問われる

    借金を返済しないと、裁判所を通じて国家権力が法的に債務者の財産を差し押さえて支払いを実行させる、強制執行の手続きがとられるおそれがあります。
    強制執行を免れるためになされた偽装離婚は、強制執行妨害罪に該当する場合があります。そして、「3年以下の懲役または250万円以下の罰金もしくはその両方」という刑罰が科される可能性があるでしょう。

4、債務整理を安全に行うなら弁護士に相談

これまでに解説してきたように、偽装離婚をすることにはさまざまなリスクがあります。偽装離婚をしたからといって財産がのこるとは限りません。また、自己破産の免責が認められなかったり刑罰が科されたりしてしまい、状況がさらに悪化するおそれもあるのです。

弁済が不可能になるほどの借金を背負ってしまったなら、まずは弁護士に相談することが、安全で適切な債務整理を行うための近道となります。債務整理の方法には、主に「任意整理」「特定調停」「個人再生」「自己破産」の4種類があります。相談を受けた弁護士は、あなたが抱える債務の状況にあわせて、どの手段を採用すればいいかということについての適切なアドバイスを行います。

たとえば「任意整理」は、裁判所が関与することなく、債権者と直接に交渉して将来利息などを免除してもらう合意を得て債務を整理する方法です。債務者が自身で債権者と交渉しても免除の合意を得ることは難しいので、一般的には弁護士などが代理人になって交渉します。
最終的な手段である「自己破産」についても、弁護士に依頼した方が免責許可決定を得やすい、といった大きなメリットがあります。

さらに、弁護士に依頼することによって、受任通知を債権者に送付して取り立てを停止させられます。そのため、取り立てのプレッシャーに悩まされずに、今後の生活などについて冷静に検討できるようになるでしょう。

5、まとめ

本コラムでは、「偽装離婚で借金返済を免れられるのか?」について解説してしました。
結論としては、偽装離婚によって債権者から財産を隠そうとすること自体、リスクが高い行為といえます。
なぜなら、財産隠しのために偽装離婚をすることは違法性のある不当な手段であり、自己破産の免責が認められなくなる可能性があるためです。さらには、刑罰という取り返しのつかないペナルティを科されるおそれが生じます。

偽装離婚を検討するほど借金問題に悩んでいるのであれば、できるだけ早くから弁護士に相談しましょう。適切で安全な方法により債務整理を行うことが、問題解決の近道です。
ベリーベスト法律事務所 久留米オフィスの弁護士は、ご相談者のお話をしっかりとうかがい、解決策をご提案して、全力でサポートします。ぜひ、お気軽にご相談ください。

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