配偶者からの暴力と離婚慰謝料|将来のために受けられる法的サポート
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内閣府男女共同参画局が発表した「配偶者暴力相談支援センターにおける相談件数等(令和4年度分)」によると、福岡県の令和4年度の相談件数は2132件でした。
配偶者から暴力を受けている場合、そのままの状態が続くと心身の健康に重大な影響を及ぼす可能性があります。また、子どもにも危害が及ぶ可能性もありますので、一刻も早く暴力を振るう配偶者から離れる必要があります。
暴力は、法定離婚事由である「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当しますので、離婚および離婚慰謝料の請求が可能です。肉体的・精神的に追い込まれている状態だと冷静な判断ができない方も多いと思いますので、弁護士や市区町村の法的サポートを受けながら離婚に向けた手続きを進めていくようにしましょう。
本コラムでは、配偶者からの暴力に悩む方に向けて、離婚や慰謝料請求の手続き、将来のために受けられる法的サポートなどについて、ベリーベスト法律事務所 久留米オフィスの弁護士が解説します。
1、配偶者からの暴力を理由に離婚できる?
そもそも配偶者からの暴力を理由に離婚をすることはできるのでしょうか。以下では、DVの定義と種類、DVを理由とする離婚の可否について説明します。
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(1)DVの定義と種類
DVとは、「Domestic Violence(ドメスティック・バイオレンス)」の略称で、配偶者や恋人などの親密な関係にある人からの暴力という意味で用いられます。
DVには主に以下のような種類があります。
① 身体的暴力
身体的暴力とは、殴る蹴るなどの有形力を行使する暴力のことを指します。このような暴力は、暴行罪(刑法208条)や傷害罪(刑法204条)に該当する違法な行為であり、夫婦間で行われたとしても処罰の対象となります。- 拳で殴る
- 足で蹴る
- 髪を引っ張る
- 首を絞める
- 押し倒す
- 物を投げつける
② 精神的暴力
精神的暴力とは、心無い言動などにより相手の心を傷つける暴力のことを指します。精神的な暴力により、相手がPTSD(心的外傷後ストレス障害)になると、刑法上の傷害罪として処罰される可能性もあります。- 大声で怒鳴る
- 無視する
- 悪口を言う
- 人前で罵倒する
③ 性的暴力
性的暴力とは、相手が嫌がっているにもかかわらず無理やり性交を行うといった暴力のことを指します。夫婦間の性交でも、その態様によっては不同意性交等罪が成立する可能性があります。- 嫌がっているのに性行為を強要する
- 避妊に協力しない
- 中絶を強要する
- 特殊な性癖を押し付ける
④ 経済的暴力
経済的暴力とは、相手の金銭の自由を奪い、経済的に追い詰める暴力のことを指します。夫婦には法律上、協力・扶助義務がありますので、生活費を渡さないなどの経済的暴力は、夫婦の基本的な義務に違反する行為といえます。- 生活費を渡さない
- 自由にお金を使わせない
- 働くことを認めない
- 趣味やギャンブルで浪費をする
⑤ 社会的暴力
社会的暴力とは、相手が社会との交流を持つことを不当に制限する暴力です。社会的に隔離されてしまうと、被害者は孤立して外部への助けを求めることが難しくなってしまいます。- 電話、メール、LINEなどのSNSを細かくチェックする
- 許可なく外出することを認めない
- 家族や友人との付き合いを制限する
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(2)DVを理由に離婚することは可能!
通常、離婚は協議離婚(話し合い)で解決しなければ調停離婚、そして調停離婚が成立しなければ裁判離婚という流れを踏むことになります。
話し合いや調停では、相手が離婚に応じてくれるようであれば、どのような理由であっても離婚することが可能です。しかし、裁判離婚にまで移行した場合は、裁判になったときに離婚が認められる離婚理由である「法定離婚事由」に該当していなければなりません。
DVは、民法が定める法定離婚事由の1つ「その他婚姻を継続し難い重大な事由」(民法第770条第1項第5号)に該当する可能性があります。
DVの内容・程度・頻度などにより法定離婚事由に該当するかどうかの結論は異なりますが、法定離婚事由に該当すれば、相手が離婚を拒否していたとしても、裁判離婚をすることが可能です。
2、DV被害者が受けられる法的サポート
DV被害者は、心身ともに追い詰められた状態ですので、自分一人では冷静な判断ができない可能性があります。そこで、以下のような状況に応じた法的サポートを利用しながら離婚手続きを進めていくとよいでしょう。
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(1)配偶者から逃げたい
配偶者から物理的に距離を置きたい場合、警察はもちろん、女性の場合は女性相談支援センターを利用できます。
① 警察
配偶者からの暴力により身の危険を感じる場合は、最寄りの警察署や交番に駆け込み助けを求めるとよいでしょう。
② 女性相談支援センター(配偶者暴力相談支援センター)
女性相談支援センターは、各都道府県に必ず1つ設置されている相談機関で、配偶者からの暴力被害を受けた女性などからの相談に応じています。女性相談支援センターは配偶者暴力相談支援センターの機能を担う施設のひとつでもあり、「#8008」(はれれば)に電話をすると、近くの配偶者暴力相談支援センターにつながりますので、まずは電話で連絡してみましょう。
久留米市の場合、福岡県が設置している「福岡県配偶者暴力相談支援センター」(筑紫、粕屋、糸島、宗像・遠賀、嘉穂・鞍手、田川、北筑後、南筑後、京築)、または「北九州市配偶者暴力相談支援センター」「福岡市配偶者暴力相談支援センター」などが候補になります。
配偶者と離れて一時的に別の場所に避難したいという場合には、女性相談支援センターの一時保護を利用するとよいでしょう。一時保護を利用すれば、DVシェルターなどに入所することで、配偶者からの暴力から逃れることができます。 -
(2)配偶者が近寄ってこないようにしてほしい
配偶者から執拗に接近される場合は、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(配偶者暴力防止法)に基づき、近寄らないようにすることができます。
① 配偶者暴力防止法に基づく接近禁止命令
配偶者から暴力や脅迫を受け、さらなる暴力や脅迫により生命・身体に重大な危害が生じるおそれが大きいときは、裁判所に接近禁止命令の発令を求めることができます。
接近禁止命令が発令されると、被害者の身辺へのつきまとい、被害者の住居や勤務先などの付近を徘徊することなどが禁止されます。
② 配偶者暴力防止法に基づく退去等命令
配偶者から暴力や脅迫を受け、さらなる暴力により生命・身体に重大な危害が生じるおそれが大きいときは、裁判所に退去命令の発令を求めることができます。
退去命令が発令されると、相手は一緒に生活する住居からの退去を命じられ、住居の付近を徘徊することが禁止されます。
③ ストーカー規制法に基づく警告および禁止命令
配偶者からつきまといなどを受けている場合は、警察に相談することでストーカー規制法に基づく警告や禁止命令を発令してもらうことができます。
相手が禁止命令に違反した場合には、罰則が適用されます。 -
(3)新しい生活を始めたい
配偶者から離れて新生活を始めたい場合、生活拠点をはじめ、生活資金や職を確保するためのサポートを受けられる可能性があります。
① 生活拠点の確保
自治体の福祉関連窓口に申し込みをすることで、母子生活支援施設や女性自立支援施設を利用することができます。
② 生活資金の確保
当面の生活資金に困っている場合には、自治体の福祉関連窓口で申し込みをすることで以下のような制度を利用できる可能性があります。- 生活保護制度
- 生活福祉資金貸付制度
- 母子父子寡婦福祉資金貸付金制度
③ 職の確保
専業主婦で収入がないという方は、お住まいの地域を管轄するハローワークで就職先の紹介を受けたり、就職のための職業訓練を受けたりすることができます。
④ 住宅の確保
経済的な理由からアパートを借りる余裕がないという方は、自治体の担当窓口で申し込みをすることで公営住宅に入居できる可能性があります。
3、暴力被害についての慰謝料請求
配偶者から暴力被害を受けたときは、相手に対して、慰謝料を請求することができます。
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(1)配偶者の暴力を理由とする慰謝料請求が可能
DVは、民法上の不法行為に該当しますので、DV加害者に対して、DVによる慰謝料を請求することができます。また、配偶者によるDVが原因で離婚に至った場合には、離婚慰謝料を請求することもできます。
DV被害者は、相手に怯えて離婚を急ぐあまり、慰謝料請求を諦めてしまう方も少なくありません。しかし、慰謝料請求は、DV被害者として当然の権利ですし、離婚後の生活費に充てることもできます。弁護士に相談・依頼して、しっかりと請求していくようにしましょう。
弁護士に依頼することで、弁護士が窓口となって相手との交渉等を代行することができますので、依頼者は相手に連絡をしたり顔を合わせて交渉したりする必要はありません。 -
(2)暴力を理由とする慰謝料相場は50〜300万円程度
暴力には、さまざまな種類がありますので、暴力の種類や内容・程度によって慰謝料の金額は大きく変動します。慰謝料の金額はケース・バイ・ケースとなりますが、暴力を理由とする一般的な慰謝料相場は、50〜300万円程度といわれています。
なお、以下のような要素がある場合には、慰謝料が高額になる傾向があります。- 暴力により怪我や後遺症が生じた
- 婚姻期間やDVの期間が長い
- 未成熟子がいる
- 相手に経済的な余裕がある
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(3)慰謝料請求にあたっては証拠が重要
暴力を理由に慰謝料を請求するには、暴力被害を受けた側で配偶者による暴力があったことを立証していかなければなりません。当事者同士の話し合いで解決できず、裁判にまで発展すると、証拠がなければ慰謝料の支払いを命じてもらうのは困難です。
そのため、慰謝料請求をお考えの方は、以下のような証拠を集めておくようにしましょう。- 医師による診断書
- 暴力により怪我をした部位や壊された物の写真
- 警察や公的機関への相談記録
- 暴力を受けている状況の録音や録画データ
- 日々の暴力の内容を記録した日記やメモ
4、今後のために! 慰謝料以外に請求できる可能性のあるお金
離婚後の生活で経済面に不安があるという方もいらっしゃるでしょう。離婚時は、暴力被害等への慰謝料以外にも、以下のようなお金の請求を検討していきましょう。
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(1)婚姻費用
婚姻費用とは、夫婦が婚姻生活を維持するために必要になる費用をいいます。離婚前に別居をするときは、収入の低い方が多い方に対し、婚姻費用として生活費を請求することが可能です。収入の多寡を見るので、性別は問題になりません。
暴力の被害を受けている方は、相手と話し合うのが怖いなどの理由で婚姻費用の請求を諦めてしまう方も少なくありません。しかし、離婚手続きが長期化するとその間の生活費の負担も大きくなります。
ご自身で対応するのが難しい場合は、弁護士に依頼するなどして婚姻費用の請求を行っていきましょう。 -
(2)養育費
養育費とは、子どもの監護や教育に必要となる費用をいいます。離婚により子どもの親権を獲得した監護親は、非監護親に対して、養育費を請求することが可能です。
養育費は、子どもの健全な成長にあたって重要なお金になりますので、養育費算定表を利用するなどして、適正な金額を定めることが大切です。また、相手の不払いのリスクに備えるためにも、協議離婚をする際には、公正証書により養育費の取り決めを行うのがおすすめです。
強制執行認諾文言付きの公正証書で養育費を取り決めることで、もし非監護親が養育費の支払いを滞納した場合は、強制的に支払ってもらう強制執行手続きを行うことが可能です。 -
(3)財産分与
財産分与とは、離婚時に夫婦の共有財産を清算することができる制度です。専業主婦(主夫)であっても、財産分与により2分の1の割合で財産を分けてもらう権利がありますので、しっかりと請求していきましょう。
適正な財産分与を行うためには、お互いにすべての財産を開示し合う必要がありますが、暴力を振るうような相手だと財産を隠す可能性も否定できません。相手の財産を正確に把握するためにも、弁護士によるサポートの利用を検討しましょう。
弁護士であれば、「弁護士照会制度」を利用して、金融機関等へ財産の照会が可能です。ただし、弁護士照会制度への回答は任意ですので、金融機関が回答してくれないこともあります。そのような場合は、裁判所の調査嘱託の申し立てを検討することになります。
このように、状況に応じて採るべき方法が異なってきますので、まずは弁護士に相談してみましょう。 -
(4)年金分割
年金分割とは、婚姻期間中の保険料納付額に対応する厚生年金を分割して、将来自分の年金として受け取ることができる制度です。
離婚後すぐにもらえるお金ではありませんが、将来もらえる年金を増やすことができますので、忘れずしっかりと請求していきましょう。
5、まとめ
配偶者から暴力を受けている場合には、配偶者が応じてくれなかったとしても、裁判により離婚や離婚慰謝料を請求することができます。
ただし、暴力を理由に離婚や離婚慰謝料を求めるためには、相手の暴力を客観的な証拠により立証していかなければなりません。どのような証拠が必要になるのか、どうやって証拠を集めればよいのかわからないという方は、まずは弁護士に相談するようにしましょう。
配偶者による暴力を理由に離婚をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 久留米オフィスまでお気軽にご相談ください。
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